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黎光の継承―七つの魂と選ばれた少女―  作者: りこ。
第三章 水鏡の奥、影の真相
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第246話 癒しの手、揺れる心

駆け込んだ人々は、十数名ほど。


誰もが息を切らし、

椅子に崩れ落ちるように座り込んでいた。


修道女たちが、慌ただしく水を配っている。



エリオンは、支えていた旅人の妻をそっと椅子へ座らせた。


「足を怪我されていますね……出血が」


静かに膝をつき、傷を確かめる。


その表情には、責任と心配が滲んでいた。


「すみません。手当てをお願いします」


声を受け、修道女が治療箱を取りに走る。



リリナも、そっとその隣に膝をついた。


「派手に転んでしまいました」


妻は気丈に笑ってみせる。


けれど、その傷は決して軽くはない。


(……この程度なら……私でも……)


胸の奥で、何かが流れる。


水の国に来てから感じていた――

あの、不思議な感覚。


(……使える気がする)


リリナは、そっと傷へ手を伸ばした。


「姫様、お手が……汚れてしまいます……」


驚いて制止しようとする妻に、

リリナは静かに微笑む。


(大丈夫……きっと……できる)



触れた瞬間。


胸の奥から、温かな水が満ちていく。


静かに、ゆっくりと。


その流れが、掌から相手へと伝わっていく。


「……っ、あ……温かい……」


妻の瞳が見開かれる。


リリナを見て――

そして、エリオンへと視線が移る。


エリオンは、息を呑んでいた。


ただ――息をするのも忘れたように、

リリナの横顔を見つめていた。


「痛くありませんか?」


リリナが優しく問いかける。


「……はい……」


妻は、小さく首を振った。


「温かいものが……流れ込んでくるようで……」


その声は、わずかに震えていた。


やがて――


その温もりが、すっと静まる。


リリナは、そっと手を離した。


三人の視線が、傷へと落ちる。


――そこには、もう何も残っていなかった。


「……えっ……!? 傷が……消えてる……!」


最初に声を上げたのは、妻だった。


「姫様……あなた、一体……?」


リリナは、少しだけ困ったように笑う。


「……私にも、よく分からないんです」


そのとき。


エリオンが、静かにリリナの手を取った。


「リリナ姫様……」


その声は低く、やわらかい。


「手は、痛くありませんか?

無理をされたのでは……」


それは――


騎士でもなく、王子でもなく。


ただひとりの人としての、純粋な心配だった。


胸が、揺れる。


リリナは、そっと微笑む。


「大丈夫です……エリオン様」


視線が重なる。


ほんの一瞬。


それだけで、心臓が跳ねた。


リリナは、そっとその手を離す。


ちょうどその時、修道女が治療箱を抱えて戻ってきた。


「あの……すみません。

もう、手当ては必要ないようです」


エリオンが、申し訳なさそうに告げる。


修道女は目を丸くし、

リリナと、治った足を見比べた。


「……奇跡、でございますね……」



静まり返った祈りの宿。


その中に、わずかなざわめきと――

安堵の息が、静かに、確かに広がっていった。

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