表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎光の継承―七つの魂と選ばれた少女―  作者: りこ。
第三章 水鏡の奥、影の真相
240/331

第238話 揺らぐ静水、三つの影

“静めの儀”と“光の花弁”の奉納を終えるころ――

聖水広場では、水の楽師たちによる奉納演奏が始まっていた。


水滴を弾くような音色を奏でる楽器――水琴。

その静かな旋律が、湖面を滑る風に溶けていく。


リリナはひとり、音に耳を傾けながら佇んでいた。


そのとき――

背後に、柔らかな気配が落ちた。


振り返る。


「奉納、とても綺麗でしたよ」


レヴィアンだった。


穏やかな微笑。

変わらない声音。


「ありがとうございます」


少し頬を染めながら答えると、

ふたりは自然に笑みを交わした。


そこには――学院時代の、やわらかな距離が残っている。


「セレフィアとアクエリシアの繋がり……美しいですね」


「私もそう思います。

黎光の川が、二つの国をずっと結んでいますから」


レヴィアンは静かに頷く。


そして――


「昨夜は――」


そこまで言いかけて、レヴィアンは言葉を止めた。


「……いえ。何でもありません」


「……?」


首を傾げるリリナに、

彼は小さく笑って視線を逸らす。


「屋台が出ているようですね。飲み物を買ってきます」


「あ、私も――」


言い終わる前に、

レヴィアンは軽く手を振り、その場を離れていった。


(……レヴィアン様、変わらないな)


温かくて――

踏み込まず、距離を守る人。


その背を見送り、

リリナは再び演奏へと視線を戻そうとする。


そのとき――


エリオンの姿が、目に入った。


フェイラと並び、何か報告を受けている。


時折、わずかに表情を緩めながら。


(……エリオン様の周りにも、側近の方がいるんだ)


レンセリオンのそばにいる者たちのように。


ただ――


フェイラの纏う空気は、どこか鋭い。


近づきがたい、冷たい水のような気配。


胸の奥に、小さな不安が落ちる。


そのとき。


再び、横に気配が落ちた。


(あ、レヴィアン様が戻って――)


振り返る。


そこに立っていたのは――第一王子セラフィンだった。


「セ、セラフィン様……!」


慌てて深く頭を下げる。


セラフィンも丁寧に礼を返した。


「“光の花弁”の奉納……ありがとうございました」


「いえ……こちらこそ、大切な儀式を任せていただき、光栄です」


リリナの言葉に、セラフィンは柔らかく微笑む。


だが――


その視線が、わずかに逸れた。


舞台袖。


片付けの進むその奥――

エリオンとフェイラの方へ。


そして、低く呟く。


「……一国の姫を、このようにひとりで待たせるとは」


一拍。


「エリオンは、一体何をしているのか」


その声音は、冷たく沈んでいた。


リリナは、そっとエリオンの方を見る。


変わらず、フェイラと並んでいる。


――どこか、近い距離で。


そのとき。


セラフィンが、さらに小さく呟いた。


「あの女……」


低く、押し殺した声だった。


その言葉に、リリナは反射的に振り返る。


「……女? 今、女って……?」


セラフィンは一瞬だけ表情を崩し、首を振った。


だが――


問いは、止められない。


「フェイラ様……女性なのですか?」


沈黙。


やがてセラフィンは、静かに口を開いた。


「……ええ。性別としては、女性です」


その瞬間。


胸の奥に、ちくりとした痛みが走る。


思っていたよりも――深く。


(……女性……だったんだ)


波紋のように、感情が広がる。


「フェイラに……何か言われましたか?」


セラフィンの問い。


「え……? いえ……」


首を横に振ると、

彼は小さく息を吐いた。


だが、リリナの中には――

確かなものが残っていた。


――エリオン様とフェイラ様の間に、何かがあるのかもしれない。


水面の下で揺れる影のように。


その感覚は、静かに、消えずに残り続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ