第236話 触れそうな息、揺れる告白
起き上がったエリオンの髪が、少し乱れていた。
その無防備さが、妙に愛しくて――胸が熱くなる。
「……あ、あの。お水……飲まれますか?」
机に戻しかけたコップを、もう一度差し出す。
エリオンは、わずかに驚いたように瞬きをし、体を起こした。
そのまま素直に受け取り、喉を鳴らして一気に飲み干す。
「まだ、いりますか?」
小さく首を横に振る仕草。
どこか幼く見えてしまって――
(……アルコールが入ってる時のエリオン様……)
思わず、笑みがこぼれた。
その瞬間。
エリオンの視線が、ゆっくりと持ち上がる。
ベッドに腰かける彼と、すぐ前に立つ自分。
急に、距離が近すぎることに気づいて――
リリナは慌てて、笑顔を引っ込めた。
「えっと……その……」
視線が泳ぐ。
リラの姿が目に入り、言い訳のように口を開きかけた――そのとき。
エリオンの腕が伸びた。
後頭部に、そっと触れる。
「え……?」
引き寄せられる。
息が重なる。
そして――
息を奪うように、唇が重なった。
逃げる間もなく、触れられる。
やわらかくて、あたたかくて――
どうしていいか、分からなくなる。
思考が、一瞬で途切れる。
触れた温度だけが、はっきりと残る。
行き場を失った手は、エリオンの肩へ。
けれど、そのまま――
気づけば、頬を包むように触れていた。
やがて、唇が離れる。
それでも――距離は、そのままだった。
息が触れそうなほど近くで、
ただ、見つめ合う。
そして。
「……あなたが好きでした。」
落ちるような声。
その一言に、胸の奥が強く締めつけられる。
あの時――
両想いだったのだと、今になって気づく。
胸が、張り裂けそうになる。
「……私も……好きでした。」
やっとの思いで、声を返す。
エリオンは、かすかに微笑んだ。
その笑みは――
長い時間、胸に閉じ込めていた想いが、
ようやく触れたような、やわらかな光だった。




