第234話 薄明の部屋、寄り添う小さな温度
ティアラの部屋にて。
リリナは、子犬――リラが引っ張ってきたメダルを拾い上げた。
このまま床に置いておくのは、どこか落ち着かない。
(……せっかくだし、ちゃんと飾ってあげたい)
そう思い、部屋を見回す。
視線の先、ベッド近くの壁に小さなフックがあった。
(ここなら……ティアラ王女にも見える位置だよね)
リリナはそっと、メダルをかけた。
その瞬間――
ふと、気配を感じて振り返る。
リラが、飾られたメダルをじっと見上げていた。
(……おもちゃ、取られて悲しいのかな)
それとも――
(もともと、ここにあった……?)
答えは分からない。
けれど、その視線がどこか大切なものを見つめているようで――
リリナの胸の奥が、そっと揺れた。
⸻
(……リラの寝場所、どうしよう)
ここはティアラの部屋。
だから――本当は、ここで一緒に眠るべきではない。
(……廊下に出すのは、可哀想だよね)
ベッドの端に腰掛け、考え込んでいると――
ベッドの下から、
「……わん」
と、小さな声がした。
覗き込むと、リラが顔だけ出している。
まるで「ここだよ」と言うように。
「……もしかして、誰かと一緒に寝るのが習慣なの?」
ぱちぱちと瞬く瞳。
その仕草に、胸がふわりと温かくなる。
リリナはそっとリラを抱き上げ、ベッドの上へ乗せてあげた。
するとリラは嬉しそうに尾を振りながら、忙しなくシーツの匂いを嗅ぎ回り――
やがて、“ここだ”と決めた場所で、くるりと小さく丸まった。
すっかり、眠る体勢だった。
「……ま、いっか」
小さく笑いながら、リリナはそっと息を吐く。
⸻
部屋の扉を少しだけ開けておき、
リリナは就寝の準備のため、浴室へと向かった。
静かな回廊を歩く。
(……今日は、色んなことがあったな)
エリオンの優しい横顔。
レヴィアンとの再会。
そして――不穏な影の気配。
すべてが、胸の奥で波紋のように広がっている。
けれど。
ティアラの部屋の灯りと――
そこに丸まって待っているリラの温もりだけは、
不思議と、心を静かに落ち着かせてくれた。




