第230話 沈む胸音、揺らぐ再会
城へ戻ると、エリオンはすぐに王のもとへ向かった。
リリナは、レヴィアンの出迎えを任され、
アクエリシアの侍従たちとともに玄関前へと並ぶ。
けれど――
胸の内は、どこか落ち着かなかった。
静水祭は……本当に行われるのだろうか。
せっかくレヴィアン様が来てくださるのに。
それとも――
エリオン様との“共鳴”が、優先されるのだろうか。
考えがまとまらず、
リリナはそっと胸元に手を当てた。
そのとき、隣からの気配に気づく。
視線を向けると――
侍従のセリオが、静かに一礼していた。
学院時代、マルナとよく一緒にいた侍従だ。
(……マルナも来られたらよかったのに)
そう思った瞬間――
石畳を伝うように、車輪の音が響いた。
テルメナの紋章を掲げた馬車がゆっくりと停まり、
扉が開く。
現れたのは――
少し日焼けした、レヴィアン・アード・テルメナ。
変わらない穏やかな面影に、
胸の奥がふっと温かくなる。
平和だった学院の日々が、
胸の奥で、そっとほどける。
レヴィアンは深く礼をし、
出迎えの者たちへ丁寧に感謝を述べる。
そして顔を上げた、その瞬間――
視線が、重なった。
「……リリナ姫?」
驚きが滲む声。
だが次の瞬間には、
迷いなくこちらへ歩み寄ってくる。
「お久しぶりですね、リリナ姫!」
両手で包み込むように、手を取られる。
温かく、力強い握手。
リリナも微笑み、
そっとその手を受け止めた。
「はい。お元気そうで、レヴィアン様」
「ええ。国の仕事で外に出ることが多くて……
少し日焼けしてしまいました」
照れたように笑うその姿に、
胸がやわらかくほどけていく。
「エリオン様は、今王陛下との謁見中でして……
本当は、お二人でお迎えしたかったのですが」
そう告げると、
レヴィアンはやさしく首を振った。
「どうかお気になさらず。
それより――」
ふいに、表情が変わる。
穏やかなまま、
けれどどこか探るような眼差しで。
「レンセリオン殿とのご婚約、おめでとうございます」
「っ……!」
胸が跳ねる。
(……もう、伝わっているの……?)
「ありがとうございます……。
突然のことで、驚かれましたよね……?」
頬に熱が集まる。
レヴィアンは少しだけ視線を逸らし、
困ったように笑った。
「ええ……驚きました。
てっきり――」
そこで言葉を切り、
静かに首を振る。
「……失礼しました。余計なことを」
(てっきり……って、やっぱり……エリオン様のこと……?)
胸の奥に、かすかな痛みが走る。
けれどそれを表には出さず、
リリナは小さく微笑んだ。
その空気を和らげるように、
レヴィアンが話題を変える。
「婚約式が延期になったと聞きましたが」
その一言に――
背筋が、ひやりと冷えた。
(ルクヴェル……もう動いてる……?)
どこまで、知っているのだろう。
「はい……事情があって、しばらく……」
そう答えると、
レヴィアンはやわらかく頷いた。
「よろしければ――
エリオン殿が戻られるまで、
中で少しお話ししませんか?」
「……はい。ぜひ」
ふたりは並び、
静かな回廊へと歩き出した。




