第231話 氷茶と祝福、揺れる三つの想い
応接間に案内され、ふたりは向かい合って腰を下ろした。
やがてレヴィアンが荷物を探り、丁寧に包まれた小箱を取り出す。
「え……?」
驚くリリナの前に、彼は柔らかく微笑みながら両手で差し出した。
「リリナ姫へ――私からの婚約祝いです。」
「えっ……! あ、ありがとうございます……!」
頬が熱くなる。
嬉しさと戸惑いが一度に押し寄せ、言葉が続かない。
「本当は、婚約式でお渡ししたかったのですが……延期になってしまいましたから。」
少し照れたように笑う。
「こういうお祝いごとは、気持ちが温かいうちに伝えたい性分でして。」
(……レヴィアン様って、いつもこう。
まっすぐで、やさしい)
「開けてみてください。」
促されるまま包装をほどく。
現れたのは、テルメナ産の鉱石を削り出した細身のブレスレットだった。
控えめな造りなのに、どこか凛とした気品がある。
「わぁ……綺麗……」
思わず笑みがこぼれる。
そのまま腕に通すと、ぴたりと馴染んだ。
「ぴったりでしたね。良かった。
……もうひとつは、レンセリオン殿の分です。」
「え……お揃いなのですか……?
本当に、ありがとうございます。」
胸がじんわりと温かくなる。
そこへ侍従が静かに現れ、銀盆を置いた。
冷えたセレナス氷茶と、淡く光る干菓子。
「《氷果の雫》にございます。
口の中でゆっくりと溶ける菓子でして……」
侍従が下がると、ふたりは盆を覗き込む。
「あ、セレナス氷茶は以前いただきました。少しならお話できます!」
リリナが身を乗り出すと、レヴィアンも楽しげに耳を傾けた。
「温度で香りが三段階に変化するお茶で――
一口目は清涼感、二口目は花の香り……」
「三口目は、柔らかな甘みと苦みの余韻です。」
低く穏やかな声が重なった。
ふたりが振り向くと、扉口にエリオンが立っていた。
「エリオン殿……!」
レヴィアンが立ち上がり、固く握手を交わす。
「遅くなりました。ようこそ」
エリオンは自然にリリナの隣へ腰を下ろした。
ふと、その視線が彼女の手首へ落ちる。
「婚約祝いです。」
「レヴィアン様からいただきました。」
重なるように説明すると、エリオンは優しく微笑んだ。
「……素敵ですね。」
軽く盆を示す。
「冷えているうちにどうぞ。香りが飛んでしまいますから。」
ふたりは顔を見合わせ、小さく笑って菓子を口に運ぶ。
ひんやりとした甘さが、静かに広がった。
「美味しい……」
――この空気は、どこか懐かしい。
けれど。
同じではない。
エリオンが一呼吸置き、ふたりを見る。
「静水祭は、予定通り行われます。」
リリナはわずかに目を見開いた。
「他の祭事は中止となりましたが……
日中の行事であるため、問題はないと判断されました。
ただし、大幅に短縮されます。」
静かに頷く。
カーテン越しに揺れる湖の光が、三人を淡く照らす。
その光の中で――
確かに、何かが動き始めていた。




