第226話 水の朝、静けさに揺れる光
翌朝。
アクエリシア王ラディウス、王妃セレナ、第一王子セラフィン、
そして第二王子エリオンとリリナの五人で、静かな朝食の席が設けられていた。
長い水晶のテーブルには、
この国特有の“透明な朝食”が並んでいる。
霊水茶——氷草を沈めた、淡い水色の茶。
淡雪スープ——湖藻の出汁と白豆でつくる、白い霧のような一皿。
氷果のマリネ——青苺と氷果を蜂蜜水で和えた清涼な果実。
白身魚の冷燻——セレナス湖の魚を低温で香らせた料理。
水鏡パン——白藻バターを乗せると、水面のように光を返すパン。
彩りは控えめ。
けれど、そのすべてが澄んだ空気をまとい、どこか神聖な気配を宿していた。
アクエリシアは、“静謐”を重んじる国。
席についても言葉は少ない。
銀器が触れ合う微かな音と、水果の香りだけが、静かに場を満たしていた。
リリナは、細身の銀製具叉を手に取る。
音を立てずに挟むことが礼儀とされる、アクエリシア独自の食器だ。
白身魚へとそっと向ける。
……けれど。
(……あれ?)
思うように扱えない。
(この食器……難しい……)
緊張のせいか、指先がわずかに震えていた。
そのとき——
隣から、すっと手が伸びる。
エリオンだった。
何も言わず、リリナの皿へと指を添える。
白身魚の尾を軽く折り、
音もなく、骨だけを引き抜いた。
身は崩れず、形もそのまま。
そのまま掌を上に向け、そっと差し出した。
「……っ」
思わず、息を呑む。
胸の奥に、じんわりと灯るものがあった。
思わず、そっと手を合わせてしまう。
エリオンは、かすかに目を細めた。
「どうぞ。」
それだけ。
けれど——
その一言が、やけに優しかった。
「ありがとうございます……」
控えめに受け取る。
ふと顔を上げると——
向かいの王族たちが、穏やかにこちらを見ていた。
何も言わない。
けれど、その眼差しはやわらかくて。
まるで——
“そのままでいいのですよ”
そう、静かに伝えてくれているようだった。
言葉はない。
けれど、確かに通じている。
視線だけが、そっと心を結んでいく。
アクエリシアの朝は——
言葉ではなく、
水のような揺らぎで、優しさが静かに満ちていた。




