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黎光の継承―七つの魂と選ばれた少女―  作者: りこ。
第三章 水鏡の奥、影の真相
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第224話 水の都の迎え、眠る記憶

アクエリシアの王城は、セレナス湖の水面に映る光をそのまま形にしたように、白と水の光で編まれていた。


扉をくぐった瞬間、ひんやりとした空気が広がる。

けれどその冷たさは氷ではなく――

静かな湖の底を思わせる、深い安らぎだった。


石造りの廊下を進むと、広間にはすでに王と王妃、第一王子がリリナの到着を待っていた。


エリオンと並び姿を見せると、

ラディウス・マティアス・アクエリシア王が静かに立ち上がる。


「ようこそ、アクエリシア王国へ。リリナ姫殿下。

我が国は水と霊性を重んじる地。……あなたのような“光の器”を迎えられること、心より嬉しく思います。」


儀礼を越えた温度が、その言葉に宿っていた。


続いて王妃セレナが優雅に歩み寄り、柔らかく微笑む。


「リリナ。あなたを覚えていますよ。

あんなに小さかったあなたが……こんなに健やかに。

どうか、この地で心安らかに過ごしてくださいね。」


水のように穏やかな声が、胸にしみていく。


そして第一王子セラフィンが軽やかに前へ出て、深く礼をした。


「リリナ姫様。再びお目にかかれて光栄です。

学院には行けませんでしたが、エリオンから話は聞いています。

ぜひ、あなたの口からも――」


明るく、活気のある青年だった。


ここには、立場を越えた“水の国の温度”があった。

その優しさが、胸の奥に静かに広がった。


エリオンは何も言わず、わずかに目を伏せる。

その瞳の奥には、静かな安堵が宿っていた。



案内されたのは、陽の差し込むバルコニー付きの一室だった。


エリオンが扉を開く。


視界に広がったのは――

淡い水色を基調とした、穏やかな空気をまとった部屋。


丸みのある木製家具。

天蓋付きのベッドには、小さなレースと貝殻の飾り。

棚には絵本やぬいぐるみ、繊細な刺繍細工が並んでいる。


誰かが、大切に、大切に使っていた場所。


ひと目で分かった。


――ここには、幼い女の子が住んでいた。


リリナは息を呑む。


「……ここは」


「妹の部屋でした。……今は、もういませんが。」


エリオンは静かに告げた。


その声に、冷たさはない。

悲しみを凍らせず、水に溶かしたような――

深く、やわらかな揺らぎだけがあった。


「掃除は続けていますが……

家具も玩具も、そのままにしています。

……手を加えることが、できなくて。」


リリナは、そっと部屋を見渡す。


絵本の色。

ぬいぐるみの小さな縫い目。

テーブルの端に置かれた、手作りの花冠。


好きだったもの。

触れていたもの。

夢を見ていた場所。


(……まるで、この部屋ごと

エリオン様の心に触れてしまったみたい……)


胸にそっと手を当てる。


「ありがとうございます、エリオン様。

この部屋を……私に使わせてくださって。」


エリオンは、ふっと目を細めた。


「きっと、妹も……

リリナ姫様が来てくださったこと、喜んでいると思います。」


その微笑みは、どこまでも優しくて――

けれど、触れたら消えてしまいそうなほど遠かった。

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