第218話 出立の朝、揺れる誓い
翌朝。
レンセリオンは、一時的にルクヴェルへ帰還することになった。
西北の山域に関わる調査は中断。
王子としての職務を離れる許可を得るため、父王へ直に申し出るという。
「レンセリオン様、道中……お気をつけてください」
リリナの言葉に、レンセリオンは一度だけ、静かに頷いた。
そして、ゆっくりと手を伸ばす。
指先が、頬に触れる。
「しばしの別れだ。……すぐ戻る」
「……はい」
その温もりが離れる瞬間、
わずかな名残が、肌に残った気がした。
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リリナはその足で、
西北の山域へ向かうエリオン、ルーク、カイルのもとへ向かう。
「もし黒胎と思われるものを見つけても……絶対に触れないでください。
引きずり込まれます」
祈るような声音だった。
三人は力強く頷く。
エリオンが、穏やかに微笑んだ。
「どこまで調査が広がっているかにもよりますが……
静水祭も控えていますので、僕は明日には下山します」
「……はい」
一拍。
「そしたら、アクエリシアに。……あなたを連れて行きます」
「……分かりました」
リリナの胸に、小さな波紋が広がった。
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ふと、視線を感じる。
レンセリオンだった。
一瞬だけ視線が重なり——
彼は、何かを押し込めるように目を逸らす。
アクエリシアでの共鳴。
それは、三人で決めた未来。
だからこそ——
揺れる。
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「では。健闘を祈る」
短く告げ、レンセリオンは馬を蹴った。
そのまま——
一度も振り返らない。
振り返れば、
心がほどけてしまうと、分かっていたから。
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続いて、エリオン、ルーク、カイルも馬を走らせる。
それぞれが、別の方角へ。
遠ざかっていく背中。
その光景を、リリナはただ見つめていた。
(……どうか、無事で)
それだけを、強く願う。
それだけしか、できない。
けれど——
その願いは、確かに胸の奥で灯り続けていた。




