第217話 揺れる心、交差する誓い
エリオンの軽い咳払いが、静かな部屋に響いた。
ふたりははっとして、ゆっくりと距離を取る。
まだ近すぎる距離で――
視線だけが絡んだまま。
「……俺は、耐えるよ」
レンセリオンの声は、真剣だった。
「え……?」
「これから先、“共鳴”は続く。
……俺は、それを平静では見ていられない」
「あ……」
思わず、リリナは困ったように笑った。
その瞬間――
「ええ。正気ではいられないでしょうね」
冷ややかな声が、背後から降ってきた。
ふたりは同時に振り返る。
ソファに座ったままのエリオンが、静かにこちらを見つめていた。
「僕は、気にしません。遠慮もしません」
淡々とした声。
けれど、その奥には揺るぎない意志があった。
レンセリオンの表情が、ぴくりと強張る。
「お前……」
エリオンは視線を逸らさない。
「……心だけは、離さないでくださいね」
一拍。
「僕は“慈愛”の魂です。
自分に嘘はつけません」
静かで、強い。
リリナの胸の鼓動が、早くなる。
(世界の危機の話をしていたはずなのに……)
(どうして、こんな空気に……)
「え、えっと……っ!」
慌てて声を上げる。
「と、とりあえず……今後の予定を!!」
逃げるようにソファへ腰を下ろす。
レンセリオンも、なおエリオンを牽制しながら隣へ。
ふたりの視線が、また静かにぶつかった。
(……やっぱり……気のせいじゃない……)
リリナはぎゅっと手を握る。
「あ、あの……!」
意を決して口を開く。
「私は、レンセリオン様と未来を誓いました」
一拍。
「そして……エリオン様のことは……
兄として、お慕いしています……!」
その瞬間――空気が変わった。
レンセリオンが勢いよく振り向いた。
「っ……!」
リリナの肩がびくりと跳ねる。
「だ、だめ……ですか……?」
おそるおそる問いかける。
「いいですよ」
「だめだ」
声が、重なった。
レンセリオンは眉を寄せる。
「さっきの言葉は、兄の言葉ではなかった!」
間髪入れず、エリオンが返す。
「そうですか?
可愛い妹を守る言葉ではありませんでしたか」
また、始まる。
視線がぶつかる。
火花のように、静かに。
(……この感じ……)
(私たちの“共鳴の旅”……)
(思っていたより、ずっと大変かもしれない……)
それでも――
リリナの胸には、小さな光が灯っていた。
揺れながらも。
迷いながらも。
それでも前へ進むと、決めた夜だった。




