第22話 光と水、交わる剣
騎士団本部の中は、白と金を基調とした厳かな造りだった。
磨かれた石の床には騎士たちの靴音が響き、
高い壁には、第一から第四騎士団までの紋章飾りが掲げられていた。
剣、天秤、翼、灯。
金と白銀で象られたそれらは、ただの飾りではなく、
この本部を支える秩序と誇りそのもののように見えた。
レンセリオンの後ろを、リリナたち四人がついて歩いていた。
その途中、先ほど駆けつけた騎士――
逞しい体つきでありながら、どこか柔らかい印象を持つ若い騎士が、
小走りに近づいてきた。
「こちらを。通行許可の腕輪です」
差し出されたのは、細い金属の輪。
手首にはめると、微かに淡い光が走った。
「本部内では、こちらを身につけていてください。
許可の腕輪をつけていない方が歩いていると――尋問になりますので」
そう告げる声は明るいのに、言葉の中身だけが物騒だった。
「尋問……!」
リリナとアルメア、レヴィアンは顔を青ざめさせながら、素直に腕輪をはめた。
若い騎士は、そんな三人を見て、柔らかく笑った。
「出られる際には返してくださいね。
腕輪の数を数えている者がいますので」
(……腕輪ひとつにも、そんな決まりが……)
やはり騎士団本部の警備は厳しい。
けれど、その騎士にはどこか人懐っこさがあって、リリナはほんの少しだけ、緊張がほどけるのを感じた。
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練兵場に着くと、レンセリオンは武具棚から一本の剣を迷いなく選び、中央へ進んだ。
練兵場の柵の手前で、
長身の騎士が音もなく進み出て、行く手を塞いだ。
「ここから先は、エリオン殿のみです」
「……エリオン様だけ、ですか?」
自然とリリナは隣のエリオンを見上げた。
その瞳には心配の色が宿っていた。
エリオンは安心させるように微笑み、剣を一本取ると、レンセリオンのもとへ歩いていった。
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練兵場の中央で――
ふたりの王子が向かい合った。
「珍しく、感情的になっていますね」
エリオンは、いつものように落ち着いていた。
「……俺を、試すつもりか」
エリオンはすぐには答えず、柔らかく微笑んだ。
「考えすぎでは?」
その声音は静かだったが、言葉の奥には刃があった。
レンセリオンの眉がわずかに動いた。
「あの塀は、人の背丈を優に越える高さがある。
なぜ、そんな場所へ彼女を上げた」
声は冷静だった。
だが、その奥にわずかな揺れがあった。
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柵の外では、リリナたちが見守っていた。
「何を話しているのかしら……少しも聞こえませんわね」
アルメアは風の流れを探るように目を閉じた。
「聞こえますか?」
リリナが尋ねると、
アルメアはため息をつきながら答えた。
「ええ。男の矜持ですわ」
「きょ、矜持……?」
首を傾げるリリナ。
隣のレヴィアンは項垂れていた。
「……エリオン殿が、私の代わりに罰せられているのでしょうか……」
リリナは、柵の向こうに立つふたりを見た。
エリオンとレンセリオンの間には、張り詰めた空気があった。
けれど、ただ罰する者と罰せられる者の距離には見えなかった。
「エリオン様とレンセリオン様は、ご友人です」
リリナが言うと、レヴィアンは驚いた表情のまま固まり、それからゆっくりとリリナを見た。
リリナは優しく頷いてみせた。
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中央では、空気が張り詰めていた。
「最悪の事態も想定した上で、安全は確保していました」
エリオンの声は静かだった。
「その保証はなかった」
「それだけですか?
……塀の上から、何が見えました?」
エリオンの口元がわずかに緩んだ。
レンセリオンの表情が、一瞬だけ引きつった。
そして――
乱れを断つように深く息を吸い、構え直した。
エリオンも同じように構えた。
「問題をすり替えるな。
俺は――お前の判断が正しかったのかを問うている」
刃が擦れる鋭い音。
次の瞬間、ふたりの剣がぶつかった。
レンセリオンの一撃は鋭く、真っ直ぐ。
対するエリオンの受けはしなやかで、力強い。
光と水――
二つの属性が交わるように、呼吸がぶつかった。
交錯したのは、ほんの数合。
剣の残響が響いた瞬間――
エリオンが低く問いを落とした。
「その正義で、本心を覆い隠すつもりですか。
……ほかに、何を隠しているのです?」
レンセリオンの肩がわずかに強張った。
目の奥に影が揺れた。
「……知らなくていい」
震えを押し殺すような、短い一言。
エリオンはその気配を感じ取り、胸の奥で何かが引っかかった。
(……やはり変だ)
リリナにだけ見せる反応。
叔父であるライゼルによる、異例の出迎え。
そこに、レンセリオン自身が押し隠そうとしている、言葉にならない重みが重なる。
(これは……ただの守護ではない。
彼の背後に、別の命がある)
静かに剣を下げると、エリオンは言った。
「……では、ここまでにしましょう」
レンセリオンも刃を伏せ、張り詰めていた気配がほどけていった。
遠くで見守っていたレヴィアンが、小さく息を吐く。
アルメアも胸に手を当てた。
リリナはふたりを見つめながら、
胸の奥に、
小さな光の波紋のようなざわめきが、
まだ消えずに残っていた。




