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第23話 夕食に落ちた影(ささやかな痛み)

その日の夕食の席。


アルメアは、昼食のときと変わらず、

スィルファリオンの香草――セリヴァをふわりと振りかけ、

優雅に肉の皿を口に運んでいた。


その香りが、食卓にやわらかく広がった。


「エリオン殿の腕前はお見事でした」


レヴィアンが静かに口を開いた。


「数年前にグラシエル・ガードの称号しょうごうを得られたと、噂には聞いておりましたが……」


エリオンは控えめに笑った。


「きっかけは、贈り物のためです。

僕を信じていた、あの子に……称号を贈りたかったんです」


その一言が、リリナの胸を刺した。


(あの子……? 誰……?)


無意識に、エリオンの横顔を見てしまった。

胸が、じんわり痛んだ。


「私にもお手合わせ願いたいものです」


レヴィアンが熱を帯びた声で続けた。


エリオンは柔らかく微笑んだ。


「ええ、機会があればぜひ」


静かな応えだった。


リリナは、もうひとつ気になっていたことを思い出した。


胸の奥で“あの子”を押しやるようにして、

そっと口を開いた。


「あのとき……お二人で何を話されていたのですか?」


エリオンはゆっくりとリリナに視線を向けた。


「リリナ姫様を危険にさらした、と。

少し、叱られていました」


「えっ……そんな……?」


リリナは思わず声を上げた。


「でも、あれは私が手を離したから……」


エリオンはやわらかく微笑んだ。


「彼が怒るのも無理はありません。

お怪我がなくて、本当に良かった……僕もそう思っていますから」


その瞬間しゅんかん、リリナの脳裏のうりに――

転落てんらくしかけたとき、エリオンが抱きとめてくれた感触かんしょくがよみがえった。


華奢きゃしゃに見える体からは想像できない、

たくましい腕の力。

胸の広さ。

温度。


ふたりの視線が交わった。


リリナはほおが熱くなるのを隠すように、そっと視線をらした。


「私はもっとたたえるべきだと思いますわ」


アルメアが優雅に言葉を挟んだ。


「私たちの連携れんけい、見事でしたもの。

レンセリオン様を動かしましたし」


何もしていなかったはずのアルメアだが、“気持ちだけはひとつ”だったのは確かだった。


その言葉に、リリナも笑みをこぼした。


「そうですね……ふふ」


レヴィアンも嬉しそうに頷いた。


「私も久しぶりに、胸がおどりました」


エリオンは、三人のやり取りを見守りながら、静かに微笑んだ。


その微笑みは、水面に落ちる月光のように穏やかで――

リリナの胸が、また静かに温かくなった。

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