第22話 光と水、交わる剣
騎士団本部内。
レンセリオンの後ろを、リリナたち4人がついて歩く。
その途中、先ほど駆けつけた騎士――
筋肉質でありながら柔らかい印象を持つカイルが、小走りに近づいてきた。
「こちらを。通行許可証のブレスレットです」
差し出されたのは細い金属の輪。
手首にはめると、微かに淡い光が走った。
「帰る時に返してくださいね。
許可証なしで内部へ侵入すると――尋問になりますので」
「尋問……!」
三人とも顔を青ざめさせながら、素直に腕にはめた。
やはり警備は厳しい。
◇
練兵場に着くと、
レンセリオンは武器棚から一本の剣を迷いなく選び、中央へ進んだ。
練兵場の柵の手前で、
長身の騎士ルークが静かに進路を塞ぐ。
「ここから先は、エリオン殿のみです」
「……エリオン様だけ、ですか?」
自然とリリナは隣のエリオンを見上げた。
その瞳には心配の色が宿っている。
エリオンは安心させるように微笑み、剣を一本取るとレンセリオンのもとへ歩いた。
◇
練兵場の中央で――
二人の王子が向かい合う。
「珍しく、感情的になっていますね」
穏やかな声。
エリオンは、いつものように落ち着いていた。
「……俺を、試すつもりか」
「考えすぎでは?」
その微笑みは柔らかいのに、どこか鋭い。
レンセリオンの眉がわずかに動いた。
「あの塀は三メートルはある。
なぜ、そんな場所へ彼女を上げた」
声は冷静だった。
だが、その奥にわずかな揺れがあった。
◇
柵の外では、リリナたちが見守っている。
「何を話しているのかしら……全然聞こえませんわね」
アルメアは風の流れを探るように目を閉じる。
「聞こえますか?」
リリナが尋ねると、アルメアはため息をつきながら答える。
「ええ。男のプライドですわ」
「ぷ、ぷらいど……?」
首を傾げるリリナ。
隣のレヴィアンは項垂れていた。
「……エリオン殿が、私の代わりに罰せられているのでしょうか……」
「エリオン様とレンセリオン様は、ご友人です」とリリナが言うと、
レヴィアンは驚いた表情のまま固まり、
それからゆっくりとリリナを見た。
リリナは優しく頷いてみせた。
◇
中央では、空気が張り詰めていた。
「最悪の事態も想定した上で、安全に執行しました」
エリオンの声は静かだった。
「その保証はなかった」
「それだけですか?
……塀の上から、何が見えました?」
エリオンの口元がわずかに緩む。
レンセリオンの表情が、一瞬だけ引きつった。
そして――
乱れを断つように深く息を吸い、構え直す。
エリオンも同じように構えた。
「問題をすり替えるな。
俺は――お前の判断が正しかったのかを問うている」
金属が擦れる鋭い音。
次の瞬間、二人の剣がぶつかった。
レンセリオンの一撃は鋭く、真っ直ぐ。
対するエリオンの受けはしなやかで、力強い。
光と水――二つの属性が交わるように、呼吸がぶつかる。
交錯したのは、ほんの数合。
剣の残響が響いた瞬間――
エリオンが低く問いを落とす。
「その正義で、本心を覆い隠すつもりですか。
……他にも、何を隠しているのです?」
レンセリオンの肩がわずかに強張る。
目の奥に影が揺れた。
「……知らなくていい」
震えを押し殺すような短い一言。
エリオンはその気配を感じ取り、胸の奥で何かが引っかかった。
(……やはり変だ)
リリナにだけ見せる反応。
叔父のライゼルによる異例の出迎え。
感情の揺れ。
(これは……ただの保護ではない。
“言えない理由”が存在する)
静かに剣を下げると、エリオンは言った。
「……では、ここまでにしましょう」
レンセリオンも刃を伏せ、張り詰めた気配がほどけていった。
遠くで見守っていたレヴィアンが小さく息を吐く。
アルメアも胸に手を当てた。
リリナは二人を見つめながら、
胸の奥に、
小さな光の波紋のようなざわめきが、
まだ消えずに残っていた。




