第214話 影を語る声、揺らぐ魂
リリナのひと言に――
レンセリオンとエリオンは、同時に息を呑んだ。
「扉を……見つけたのか……?」
先に口を開いたのはレンセリオン。
普段よりも、わずかに低い声だった。
リリナは静かに頷く。
「日没前……丘の上でエリオン様と話していて、思い出したんです。
幼い頃、押しても開かなくて……忘れていた扉を」
一拍。
「あそこが――アウルへ繋がっていました」
エリオンは、その言葉を受け止めながら、
ゆっくりと視線を重ねてくる。
「……だから、黎光の書庫へ」
静かに言う。
「僕が向かったのは……その話を聞いたからです。
姫様が、あそこへ行かれているかもしれないと……」
視線が交差する。
わずかな沈黙。
「どうやら……私の方が、少し先だったようです……」
「……そのようですね」
エリオンは、ほんのわずかに眉を下げた。
一瞬だけ――静かな悔しさが瞳をよぎる。
リリナは両手を膝の上で握りしめた。
「わ、私のあの状態は……すべてアウルの意図です!」
その瞬間――
ふたりの瞳に、明確な驚きが宿る。
リリナは息を整え、言葉を選びながら続けた。
「扉の先で……アウルと対話しました。
私……たくさんのことを、ぶつけてしまって……」
胸に浮かぶ感情を、ひとつずつ拾い上げる。
「この世界の異変。
消えた民のこと。
……聞きたいことが、山ほどあって……」
ふたりは、ただ静かに耳を傾けていた。
リリナは、丁寧に語り始める。
――このルミナリエが、光の層“オーヴァーヴェイル”であること。
――その下に、影の層“アンダーヴェイル”が存在すること。
――長く干渉せず並んでいたふたつの界に、異変が起きていること。
――影の世界に、“本来あるべきでないもの”が生まれつつあること。
――それは影を蝕み、やがて光さえも呑み込むということ。
語り終えたとき――
部屋は、静まり返っていた。
ふたりは信じられないという表情を浮かべながらも、
その言葉の重さを、確かに受け止めようとしている。
リリナは胸に手を当て、続けた。
「私は……そのアンダーヴェイルに――
“一巡りのあいだだけ”……足を踏み入れました」
「アンダーヴェイルに……?」
エリオンが息を呑む。
その瞬間――
レンセリオンが、苦しげに顔を歪めた。
「……っ……すまない……」
首元へ手をやる。
そこに――
淡く光る紋が、広がっていた。
光が、脈のように揺れている。
覚醒の兆し。
リリナの胸がざわりと波立つ。
(……違う……)
(これは……私に反応してるんじゃない……)
(レンセリオン様の中で、別の“何か”が動いてる……?)
「て、敵ではありません!」
思わず声を上げる。
「アンダーヴェイルの人たちも……私を傷つけたり……!」
必死な否定。
だがレンセリオンは、痛みをこらえながら、かすかに笑った。
「……分かっている」
息を整える。
「これは……俺じゃない。
ルクシオンが、反応しているだけだ……」
(ルクシオンが……?)
あのとき。
“連れて行け”と願った存在。
その行き先が――
アンダーヴェイルだったのだとしたら。
すべてが、ひとつに繋がる。
リリナは戸惑いながらも、ゆっくりと頷いた。
その頷きに――
レンセリオンの琥珀の瞳に、わずかな揺らぎが走る。




