第197話 黎光鳥の導き、影へ落ちる一巡
「……リリナよ。」
その声は、風でも音でもなく――
胸の奥へ直接落ちてくる、あたたかな光そのものだった。
「私は、黎明の導翼。
黎光鳥アウル・ルミナリエ。」
根の壁が、そっと脈動する。
淡い光が、静かに揺れた。
「よく、ここまで辿り着きましたね。」
その声は、慈しむようにやわらかい。
「弱かった光は、確かに強さを増し……
ここに至るまでに、大きく育ちました。」
言葉に呼応するように、根の奥の光が呼吸する。
「世界を揺らし、あなたを目覚めさせたのは――至光の王。
けれど、私のもとへ導いたのは“慈しみの湖”。」
わずかな間。
「そして――」
声が、静かに落ちる。
「自らの足で運命を歩き出したのは……あなた自身です。」
羽がかすかに揺れ、空気があたたかく満ちていく。
やがて。
その気配が、わずかに深まった。
「リリナよ。よく聞きなさい。」
根の壁が、じんわりと光を強める。
「この世界は――光と影、ふたつの巡りによって成り立っています。」
静かに、しかし確かに響く声。
「あなたが愛するこの大地が“オーヴァーヴェイル”――光の層。
そしてその下に、重なるように存在するもうひとつの命の層。」
一拍。
「それが、“アンダーヴェイル”――影の世界です。」
光が、わずかに揺らいだ。
「互いに干渉することなく、長い時を巡ってきました。
けれど今――」
その声に、ほんの僅かな緊迫が宿る。
「影の世界に、“本来あるべきでないもの”が生まれつつあります。」
根の光が、かすかに鈍く沈む。
「それは影を蝕み、やがて光をも呑み込もうとするもの。
このままでは――」
ほんのわずか、間が落ちる。
「ふたつの界は、いずれ破綻するでしょう。」
静かな断言。
逃げ場のない、事実。
「あなたに伝えるべきことは、多くあります。
けれど――」
その瞬間。
リリナの掌にあった羽が、ふわりと浮かび上がった。
柔らかな光を描きながら、空間に溶けていく。
「私が語るよりも……」
声が、やさしく導く。
「あなたの目で、確かめなさい。」
リリナの胸が、大きく跳ねた。
「私は本来――
上と下を繋ぎ、巡りを正す存在。」
光が、ゆっくりと満ちていく。
「許しましょう。
あなたが“向こう側”へ行くことを――」
わずかな間。
「――一巡だけ。」
その言葉と同時に、空間が震えた。
光が、急速に強まる。
「そこで、あなたは“誰か”に出会うでしょう。
それもまた――あなたの運命です。」
天井の根が、眩い光の筋を描いた。
世界が、ゆっくりと裏返る。
「行きなさい、リリナ。
影の世界の真実を、その目で――」
次の瞬間。
光が、弾けた。
視界が、白に塗り潰される。
風も、音も、感覚も――消える。
そして。
気づいたときには――
リリナは、すでに“アンダーヴェイル”に立っていた。




