第196話 声を求めて、羽が落ちる
リリナは、広い空洞を見渡しながら、そっと息を呑んだ。
根の壁が、淡く脈打っている。
まるで――心臓の鼓動のように。
「……アウル……いますか……?」
静かな呼びかけは、
温かな空気に溶けるように吸い込まれていく。
「小さい頃から、あなたを見て育ちました。
今日……いつも羽を休めている場所に、あなたがいなくて……ずっと探していました。」
返事がないことは、分かっている。
それでも。
胸の奥が、言葉で満たされなければ――
張り裂けてしまいそうだった。
「今、セレフィアでは……大変なことが起きています。
日没になると、黒装束の……得体の知れない存在が、人を消していて……」
言葉が、震える。
「民が……みんな……」
喉が詰まり、うまく続けられない。
それでも――
「あなたが、いつもの場所にいなかったのも……
その“何か”と関係があるのですか……?」
一歩、踏み出す。
「……私、怖いんです……!」
その瞬間――
ひらり、と。
光を受けた一枚の羽が、頭上から落ちてきた。
「……!」
思わず、両手で受け止める。
やわらかい感触。
アウルの羽――
見間違えるはずがない。
リリナは顔を上げた。
天井にもまた、無数の根が絡み合い、
淡い光を宿して揺れている。
「……ルクシオンの塔で……」
かすれた声が、零れる。
「あなたの声を、確かに聞きました。
私の声と重なっていたけれど……あれは、あなたですよね……?」
答えを求めるように、羽を握る指に力がこもる。
「あなたは……私の身体を使って、何をしようとしているのですか……?」
震える声。
「私たちは……何も知らない……。
でも……少しでも分かれば――」
息を吸い込む。
「きっと……手を取り合えるはずなんです……!」
そのとき。
掌の中の羽が、ふわりと浮かび上がった。
光の粒が、こぼれるように舞い上がる。
羽は、そのまま――
ゆっくりと、光へとほどけていった。
リリナが息を呑んだ、その瞬間。
――耳ではなく。
胸の奥に、“声”が響いた。




