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第17話 交差する視線 ― 新たな姫君と、静かな風

宿舎に戻ると、入口前に一台の馬車が停まっていた。


「新しく到着された方でしょうか……?」

リリナが首を傾げると、エリオンは穏やかに頷く。


御者がひと息ついているだけで、乗っている者の姿は見えない。


宿舎の入口に停まっている馬車には、

大地を象ったテルメナ王国の紋章が刻まれていた。


「テルメナの王子が、すでに到着されたようですね。」

エリオンが静かに言う。


「……もう、いらしているんですね」

リリナは少し考えてから、続けた。

「昼食、ご一緒できるでしょうか」

リリナの声には期待が混じる。


「きっと、そうなるでしょう。」

エリオンが柔らかく笑った、その時――


背後から馬車の車輪の音が近づいてきた。


「もう一台……。」


ふたりは道の端に寄って、木陰から様子を見守る。


その時、宿舎の扉が開き、白銀の光がふっと現れた。


そのまま階段をゆっくりと降りてきたのは、レンセリオンだった。


宿舎の影から姿を現しただけなのに、

まるで空気ごと整うような静かな気品。


歩みにつれて、胸の紋章が

白銀の鎧に柔らかい光を落としていく。


「レンセリオン様……?」

リリナが小さく呟く。


隣でエリオンが穏やかに微笑んだ。

「僕の時も、出迎えてくださったのは彼でした。」


「私は……ライゼル様という方でした。」


エリオンは目を瞬き、リリナを見つめる。

「それは……特別扱いですね。リリナ姫様。」


「ライゼル様って……どなたなんですか?」


「レンセリオン殿の叔父君です。王様の弟君にあたります。」


「えっ……」

途端にリリナの背筋がぴんと伸びる。

(わたし……きちんと挨拶できていたかな……)


そんな不安がよぎったそのとき。


馬車から、ひとりの姫が降りてきた。

淡い緑の刺繍を施したドレスが風でふわりと揺れる。

スィルファリオンの姫君――アルメアだ。


優雅にスカートを押さえて頭を下げると、レンセリオンも丁寧に返礼する。

数言交わすと、案内役が彼女を宿舎の中へと導いていった。


残されたレンセリオンが、ふとこちらを振り返る。

遠目でも、視線が合ったと分かるほどまっすぐな眼差し。


リリナとエリオンは慌てて会釈した。

レンセリオンは歩み寄り、短く挨拶をくれた。


「こんにちは、リリナ姫。」


微笑んだ瞬間、凛とした印象がやわらぐ。

リリナも自然と笑みを返した。


レンセリオンの視線が、リリナの手元の小瓶に留まる。


「観光されたようですね。」


「はい。エリオン様に案内していただきました。」


リリナはエリオンに視線を向けて微笑む。

その表情を受け取って、エリオンも優しく微笑み返す。


……そんなふたりの雰囲気を、

レンセリオンは静かに、しかしどこか複雑そうに見つめた。


「……なかなか時間が作れず、申し訳ありません。本来なら僕がご案内すべきだったのですが。」


突然の申し出に、リリナは慌てて手を振る。

「いえいえ、そんな……!」


レンセリオンは少しだけ表情を緩め、まっすぐに言った。


「またの機会に、ぜひ。約束しましょう。」


その誠実さに気圧されつつも――

リリナは微笑んで答えた。


「……楽しみにしています。」


リリナの言葉に、レンセリオンの目がわずかに柔らぐ。


そのとき、ふとエリオンが口を開いた。


「昼食はご一緒されますか? レンセリオン殿。」


レンセリオンはわずかに意外そうに瞬きをし、

しかし次の瞬間、首を横に振った。


「……悪い。俺のスケジュールに空白はない。」


いつもの礼儀正しい“王子の声音”ではなく、

ほんの少しだけ素が覗く、飾らない返事。


リリナはその落差に思わず見上げてしまう。


(……なんだろう。今の言い方……可愛い……)


その視線に気づいたのか、

レンセリオンは目をそらし、少しだけ耳が赤くなった。


「では、失礼します。」


短く挨拶すると、背筋を伸ばして歩き去る。


その背中が見えなくなった頃――

リリナは胸にそっと手を当てて小さく呟いた。


「……王子様してるよりも、素のレンセリオン様の方が……なんだか、好きです」


隣でその言葉を聞いたエリオンが、

くすりと優しく笑う。


「彼に、ぜひ伝えてあげてください。」


「えっ……!?」


顔を赤くするリリナ。

エリオンはただ穏やかに、その反応を見守るように目を細めた。

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