第15話 光と水の散策 ― 氷花が咲いた日*挿絵
マルナに見送られ、
エリオンとリリナは、ルクヴェルの都――ルク=セリアを並んで歩いていた。
「晴れてよかったです」
リリナが空を見上げて微笑んだ。
朝の光が金色の髪を照らし、石畳までも輝かせているようだった。
「石畳がきらきらして、この都……とても綺麗ですね」
その言葉に、エリオンの口元がわずかにゆるんだ。
「リリナ姫様は、きらきらしたものがお好きですか?」
「え?」
思わず振り向くと、ちょうど視線が重なって――
胸の鼓動が跳ねた。
「はい……好きです」
エリオンは、少し考えるように視線をめぐらせた。
「それなら……ルクヴェル硝子の工房へ行ってみますか?
この国を象徴する、美しい細工物なんです」
「行ってみたいです!」
リリナが嬉しそうに頷くと、
エリオンも自然と微笑んだ。
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工房の扉が開くと、
炉の熱を含んだ空気が、ふわりと頬を撫でた。
奥では、職人が真っ赤に溶けた硝子を吹いていた。
炉の炎が揺れ、金、青、白の光が硝子の中で踊っている。
「わぁ……綺麗……」
「光晶砂の特徴ですよ」
エリオンが静かに説明した。
「光の角度で色が変わるんです。
まるで光を閉じ込めているようでしょう?」
リリナは小さく頷き、うっとりと硝子の輝きを見つめた。
溶けた硝子が、すっと形を変えていく。
リリナは、その光を追っていたはずだった。
けれど、揺れる硝子の光をたどるうち、
いつの間にか視線は、隣に立つエリオンの横顔へ移っていた。
炉の光に照らされた横顔は、
硝子の輝きと重なるように美しかった。
リリナは、しばらく目を離せなかった。
胸の奥が温かく揺れた。
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工房を出ると、通りには小さな硝子の露店が続いていた。
光の粒を閉じ込めたような硝子玉。
星のように揺れる小瓶。
虹色に反射する音硝子。
リリナは、小瓶をひとつ手に取った。
「これ……いただきます」
「では――」
リリナが小袋に手を伸ばすより早く、
エリオンが先に銀貨を渡してしまった。
「エリオン様……?」
「旅の記念です。ぜひ、姫様に持っていてほしくて」
その言葉に、胸の奥がくすぐったくなった。
「……ありがとうございます」
リリナは小瓶を大切に包み込むように持った。
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近くの噴水に腰を下ろし、
リリナは小瓶を光にかざした。
「中に何を入れようかな……」
空の小瓶を覗き込みながら呟くと、
エリオンは何かを思いついたように、やわらかく目を細めた。
「よかったら、ひとつだけ……贈り物を入れてもいいですか?」
「贈り物、ですか?」
何を入れてくれるのだろう。
そう思うと、胸の奥に小さな期待が灯った。
「では、少し……見ていてください」
「……はい」
エリオンは瓶の外側に、そっと指先を触れた。
すると、噴水の水面がかすかに揺れた。
リリナは思わず息を呑んだ。
ひとすじの水が、朝の光をまといながら小瓶へ流れ込み、
その内側で、細かな結晶へと変わっていく。
粒はきらきらと舞い、光を吸い込み、
ゆっくりと形を変えていった。
やがて――
小さな氷の花が咲いた。
「……きれい……!」
それ以上の言葉が、出てこなかった。
エリオンは、嬉しそうに目元をやわらげた。
「その花は、溶けることはありません。
ずっと、そのまま……光と一緒に咲き続けます」
リリナは、小瓶の中に咲いた氷の花を見つめた。
透きとおった花弁が、光を受けて静かにきらめいている。
それから、ゆっくりとエリオンを見上げた。
「……どうやって……?」
問いかけながら、リリナは思わずエリオンの手を取り、掌を覗き込んだ。
「何もないですよ?」
エリオンが楽しそうに笑った。
「まさか……術師なのですか……?」
「少し違います」
エリオンは肩をすくめた。
「神獣セレーネの加護でしょうか。
僕は、水に少しだけ触れられるんです」
リリナの視線が噴水へと向かった。
――じゃあ、あの時……
水の中で、触れたみたいに感じたのは……
エリオンも気づいたように、噴水へ視線を向けた。
そして、彼の瞳が静かに笑った。
「……あなたに、触れました」
リリナの顔が、一気に赤く染まった。
噴水の音が、少しだけ強まった。
「気づきましたか?」
リリナは小さく、こくりと頷いた。
「……あの時……
ぬくもりが伝わった気がしたんです」
エリオンの微笑みが、やさしくほどけた。
「ええ。あなたが光なら、
僕は水として……そっと触れることしかできませんから」
噴水の水音が、静かに揺れていた。
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『水が咲かせた、光の花』




