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第14話 朝の光にほどける気持ち ― ふたりの小さな秘密

目覚めのよい朝だった。

旅の疲れが出てもおかしくないはずなのに、体は不思議と軽かった。


朝食を終え、部屋に戻ったころ――

マルナがいつものように扉を叩いた。


入ってきたマルナは、リリナの姿を見るなり目を丸くした。


「姫様、今日はずいぶんお目覚めがよろしいのですね」


いつもなら、髪の一束が言うことを聞かずに跳ねているのに、

今日はすっきり整っていたからだ。


リリナは照れたように笑った。


「マルナ、からかわないで。

……今日は、なんだか生まれ変わったみたいなの」


その言葉に、マルナの表情がやわらかくほころんだ。

侍女じじょとしてではなく、幼なじみのような嬉しさが滲んでいた。


リリナは衣装棚を開け、装いを選びながら話し出した。


「朝食のあとね、エリオン様がアクエリシアから持ってきた“セレナス氷茶ひょうちゃ”をれてくれたの」


「まあ……セレナス氷茶を?」


「うん。水精花すいせいかを浮かべて香りを移す冷たいお茶でね……


一口目はほとんど味がしないのに、

二口目で花の香りがふわっとして、

三口目にはやわらかな甘みが広がるの。


少しだけ花の苦みもあって……とても綺麗な味だった」


マルナが静かに頷いた。


三温さんおんの茶、とも呼ばれますよ」


「そうなの……?

マルナ、どうしてその名前を知っているの?」


リリナは思わず振り向き、マルナを見つめる。


マルナはいたずらっぽく微笑んだ。


「私もいただいたんです」


「……誰から?」


「エリオン様の侍従じじゅう、セリオ様から」


セリオ――馬車で見かけた青年の横顔が、リリナの脳裏にうっすら浮かぶ。

マルナと同じ年頃に見えた。


「……そうだったのね」


短い沈黙。

ふたりの視線がふっと絡む。


なにかを探り合うような、

それでいてくすぐったいような空気。


マルナが先に、くすりと笑った。


「これから、都へ行かれるのですか? 姫様」


リリナは、胸元で指先をそっと重ねながら頷いた。


「エリオン様に案内していただくの。

……私から、お願いしてしまったんだ」


マルナは驚いて、小さく手を叩いた。

その目は、どこか嬉しそうで、やさしかった。


「……私、思っていたより、自分からお願いしてしまうみたい」


照れながら言うリリナに、マルナは温かく頷いた。


「姫様らしくて素敵です」


リリナはふと、口元を押さえて笑った。


「きっと……セリオ様も、少し手が空くのではないかしら」


マルナの頬が、ほんの少し赤くなった。


「それでしたら……姫様がお気に召した“セレナス氷茶”の淹れ方でも、教えていただきましょうか」


ふたりは同時に微笑んだ。


その笑顔は――

秘密を分け合う少女たちのものだった。

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