第11話 噴水の帰り道
噴水広場をあとにして、ふたりは来賓館へと続く白い石畳の道を歩いていた。
レンセリオンと別れたあと、空気は静かで、
春の香りだけがほのかに残っていた。
リリナは自分の掌を見つめ、
それからちらりとエリオンの手に視線を落とした。
――あの水の中で、ほんの一瞬、指先が触れ合ったような気がしたのだ。
けれど、それを確かめる勇気はなく、
ただ胸の奥に温度だけが残っていた。
「来賓館での食事は、皆でいただくのですね」
エリオンの穏やかな声に、リリナはそっと視線を上げ、手を下ろした。
「そうみたいですね」
リリナが微笑むと、
彼もまた、穏やかに笑った。
「ルクヴェルの食事、楽しみです」
リリナがそう言うと、エリオンは静かに頷いた。
「時間になったら、呼びに行きます」
「……はい」
ただそれだけの約束なのに、
胸の奥が、また少し温かくなった。
⸻
白い石畳の道は、来賓館へ向かってゆるやかに続いていた。
道沿いの花々が春風に揺れ、
遠ざかる噴水の音が、少しずつ静けさへ溶けていく。
その景色を眺めながら、
リリナはふと思い出したように口を開いた。
「到着しているのは、私たちだけなのでしょうか?
部屋の机の上に、開講式について記された紙があって……
各国の王子や姫君が揃い次第、始まると書かれていました」
エリオンは頷き、道の先を見つめながら静かに答えた。
「僕たちのほかに、セレリオスの王子、テルメナの王子、スィルファリオンの姫が来る予定だと聞いています。
テルメナは山岳を越えるのに時間がかかりますし、
スィルファリオンはこの時期、峡谷の風が強い。
セレリオスは東の果てに近い国ですから……おそらく、最後の到着になるでしょう」
「エリオン様は、世界のことを本当によくご存じなんですね」
リリナは素直に感心して、そう言った。
「私も、もっと学ばなくては……」
エリオンは、どこか遠くを見るように微笑んだ。
「僕も、すべての国を見たわけではありません。
でも――いつか、自分の足で世界を見てみたいと思っているんです」
リリナも、そっと頷いた。
「きっと、知らない景色がたくさんあるのでしょうね。
……出会いも」
「ええ。ですから――」
エリオンは少しだけ歩調を緩め、穏やかに言った。
「アクエリシアにも、いつか来てください」
穏やかに語るエリオンの横顔を見つめながら、
リリナの胸の中に、じんわりと春のあたたかさが灯っていった。
水音はもう聞こえないはずなのに、
心のどこかで、まだ静かに響いていた。




