王国歴1669年10月23日②:私で良ければ
グララブはみんなを一瞥すると、腰に手を当てて口を開いた。
「これでみんな揃ったな。それじゃ今日の予定でも話し合おうかの」
グララブの言葉に、皆はビビィの残る席へと移動した。そしてそれぞれの組み合わせで思い思いの席に座る。グララブは一人で皆の前に立った。
「実はガストロミの後、儂とヒイロと嬢ちゃんでゲッスーナ邸に行ってきた。そしてカリーナの身請けの話と皆の保証人の話を付けてきた」
「お、おいおい、身請けたぁ話が急過ぎるぜ!?」
「まぁ、避けては通れない事案ではありますが…保証人とは?」
「お主らの結婚の為の保証人じゃ!この後はシーナル組とキース組は冒険者ギルドと教会で必要書類を取ってこい。ついでにキースは冒険者ギルドで200Gを引き出しておけ」
グララブの言葉にキースが席を立った。
「に、200G!何の金だよ!?まだ結婚のお披露目会を用意するには早いだろうが?」
「阿呆、カリーナ嬢の身請け金じゃ。安心せい、御祝儀として丸々戻ってくる。ただの見せ金じゃよ。それで金と書類が用意出来たら、明日ゲッスーナ邸へ赴く。そこで保証人欄に名前を書いてもらう」
「…伯爵が保証人ですか。あとで顎で使われたりとかしないですか?」
「今回は手続きの早さが肝じゃからの。保証人が伯爵だとその辺の融通が利くじゃろ?それにコーモノはそんな度胸を持っておらん。アレは儂等と知り合いになる事が目的で、その先は何も考えとらんよ」
グララブの言葉に私は思わず頷いてしまった。それを見たシーナルは納得したようだ。その時、隣に座るヒイロが小さく手を上げた。
「こ、コマイさんさえ良ければ…俺達も教会と冒険者ギルドに行ってもいいかな?」
「なんじゃヒイロ?お主らも結婚秒読みじゃったんか?嬢ちゃんが普通に歩いとったから、昨晩も不発と思っておったが…」
「な、何もありませんって!」
「その、もしコマイさんとの約束を果たせたら…そういう手続きも必要かなと思って…ど、どうかな、コマイさん?」
「え?あの、その、まだ手を繋いだだけの関係ですけど…私で良ければ一緒に行きます……」
私は顔を真っ赤にしながら小さく頷く。そんな様子が面白いのか、みんなが私を見て微笑んだ。カリーナなんかニヤニヤを隠そうともしない。
私はその空気を変えようとグララブに声を掛けた。
「ぐ、グララブさんは何をするんですか?」
「儂か?儂は化粧品を見てこようと思っての。カリーナ嬢や、この街で良い化粧品店を知らんか?」
「化粧品店?それなら中央区画にプロデュイって店があるわ。そこの化粧品は王都の流通品で品質が良いけど、その分お金も掛かるわよ?」
「そうか、ありがとな。あと嬢ちゃん、ゲッスーナ邸のメイドは何人おる?」
「え?この4日で辞めてなければ…私を除いて14人…あとはメイド長と料理番のキュイおばさんぐらいですかね?」
「ふむ、それでは手荒れクリームは16人分で良いの」
「あら、みんなに御土産?気が利くじゃない!」
カリーナはグララブを見直したのか表情を明るくした。グララブはニッコリ微笑むと両手をワキワキとさせる。
「メイドに根回ししておけばナーナ嬢を誘いやすいじゃろ?午前中は化粧品店で道具を揃え、昼前からナーナ嬢の大改造を行うぞ!」
カリーナはそんなグララブを半眼で睨みながら、私に耳打ちしてきた。
「………コマイ」
「な、なんですか?」
「教会と冒険者ギルドは早めに切り上げて、午後はグララブを見張るわよ」
「た、確かに気にはなりますけど…昼間だと何も起こらないんじゃ…」
「ナーナの貞操を守る為ではあるけど…グララブの化粧技術も見てみたいじゃない?」
「そ、それは興味があるかも…」
「特に38歳のナーナに化粧するって事は、若返りの技術が使われるはず!将来的に必要な技術だし、今の内に知っておきたいじゃない!」
「あ~、まだ20年も先だしなぁ…私には必要ないかも……イタタタタタっ!」
私の呟きにカリーナが半眼になり、私の頬を強く抓り上げた。解放された私は頬を摩りながらカリーナに舌を出す。何だかんだ言って気安い関係だ。
「よし、話はついたな?それじゃ解散!夕方ここに集合っちゅう事で!そんでガストロミで飲み明かそう!」
「それなんですが、一つ良いでしょうか?」
それまで静かに佇んでいたシーナルが手を上げる。
「実は夕食なのですが、別の場所へ行きませんか?ガストロミの料理も美味しいのですが…」
「何か問題でもあるのか?」
「その…ビビィが”ガストロミの料理は覚えた”らしく、何も得るものが無いんだそうです」
「お、覚えたって…もしかしてビビィ嬢はあの料理を作れるのか!?」
「えっとぉ…香辛料や牛肉の産地、どこの港の魚かぐらいまでしか分からねぇけど…材料が揃えば私にも作れそうだぁ」
「魚の獲れた港まで分かるたぁ…そ、そりゃ凄ぇ才能じゃねぇか!」
「そ、そんな事ねぇよ、ただ料理が好きなだけだぁ」
キースの言葉にビビィが真っ赤になって恐縮する。その様子にシーナルが微笑むと話の続きを始めた。
「そんな訳で、教会と冒険者ギルドに行った後にビビィが店を探すそうです」
「あとぉ…良ければ明日の夜は、この食堂で食べねぇか?私の田舎の料理だども、みんなに手料理を食べてほしいんだぁ。材料は市場で揃えるし、厨房を使えるよぅ料理長には私からお願いしてみるだ」
「そりゃ楽しそうじゃ!儂も口添えするぞ!ガストロミは儂が断りを入れておく!」
その後はカリーナが軽食を食べ、グララブとビビィが料理長に厨房の使用許可を貰った。その間に私とヒイロは普段着に着替える。
準備を整えた私達は馬車に分乗して教会を目指した。




