王国歴1669年10月22日⑯:ず~っと一緒に居たいですッ!!
私が後を追うと、ヒイロがそっと呟いた。
「俺は……コマイさんの事が好きだよ」
「ウァッ!…と、突然、何を!?」
「これが俺の本心だよ…本当に、心からそう思う。話してて楽しいし、いつも一緒に居たいし、もっと手を繋ぎたい…将来の事も…夢を見たいと思うよ…」
「ちょ、ちょ、ヒイロさん!本当にどうしたんですか!?」
私はヒイロを追い抜いて、もう1回ヒイロの前に立つ。そして真っ赤な顔をヒイロに向けた。ヒイロはそんな私を見て、再び微笑む。
「コマイさんは俺の事を……どう思ってるの?」
「ニャッ!?あ、あにょですね、そ、そんな大切な事は、こんな所でいう事でなくて…」
私の頭に血が上り、顔は更に赤くなっていく。それをヒイロに見られるのが恥ずかしく、私は頬に手を当てながらヒイロに背を向けて蹲ってしまった。
本当にヒイロさん、どうしちゃったんだろう!?
いや、嬉しいよ?ヒイロさんから告白してくれて嬉しいよ?
焦って思わず噛んじゃって、変な言葉が出るぐらいに嬉しいよ?
けど何で…酔っぱらったオッサンが一緒にいる時に告白するのよ!!!
街を見渡せる高台とか、森の奥の湖畔とか…もっと雰囲気のある場所で、
二人きりの時にするもんじゃないの、告白ってぇ!
いや…今は告白の時機をどうこう言う場面じゃない…
私がヒイロさんの事をどう思ってて、それを何て伝えるかでしょ!?
ひ、ヒイロさんの事は良いと思うよ?
顔はいいし逞しいし優しいし、金は持ってるし、玉の輿としちゃ上等よ?
け、けど告白って……あ、愛し合うって事よね……
一緒に酪農できたら楽しいだろうけど、それって愛って言えるの!?
そもそも愛って何なの?全然考えた事も無いよ!
落ち着け私…ヒイロさんは”好き”って言ったんだよね?
”愛してる”じゃないのよね?
”好き”だったら私にも言えるかもしれない…
愛って何だか分からないけど、ヒイロさんの事は好きだと思うもん!
そうよ!好きだったら、一緒に将来の事を考えてもいいじゃない!
よし決めた!私もヒイロさんに好きって言おう!
私は急いで立ち上がると、決死の思いで振り返った。もしヒイロが呆れていたら、この告白は無かった事になってしまう。振り返るだけでも覚悟が必要なのだ。
有難い事にヒイロは驚いた顔をしていたが、まだ私を真っ直ぐに見てくれていた。なんとか告白は続いているようだ。
「ひ、ヒイロさん!!」
「う、うん…」
「私、ヒイロさんと同じで……一緒に居ると楽しいし、手も繋ぎたいし、一緒に酪農ができたら楽しいと思います!」
「…うん、楽しいだろうね…」
「そ、それでですね……わ、私もヒイロさんの事が……」
私の頭の中で”好き”という言葉が乱舞する。
同時に鼓動が耳を支配し、胸が苦しくなる程に締め付けられる。両足が震えそうになり、手汗どころか頭皮や背中にも汗が滲んでくる。喉が渇き、声を出す事を諦めたくなる。
しかし私は拳を握り、残り少ない息で言葉を紡いだ。
「わ、私もヒイロさんの事が好きです!!ず~っと一緒に居たいですッ!!」
パチ
パチパチパチ
パチパチパチパチパチパチ
ん?何だこの拍手は?
私は両拳から力を抜き、ヒイロの背後を見た。同様にヒイロも背後を振り返る。見ると少し離れた廊下の角から何人もの女性達が顔を出し、皆がこちらに向かって拍手をしていた。私は女性達の顔を見て凍り付く。メイドの先輩方だ。
「え、えっと…どちらさま…ですか?」
女性達を確認したヒイロは、後退りながら問い掛けた。そばかすの女性が角に隠れたまま、手をヒラヒラとさせて微笑む。
「あ、どうぞお気になさらずに続けてください」
「しかしあのコマイがねぇ~」
「わたし、何だか泣けてきちゃったなぁ…」
女性達は寄り添いながら勝手な事を言い出す。姦しいとは正にこの事だ。その声は徐々に大きくなり、漏れ聞こえてくる言葉から想像するに賭けが行われ”半年以内に結婚する”に半分以上が賭けているようだ。
私は何とか硬直を抜け出すと、女性達に向かって叫んだ。
「せ、先輩方!!な、何でこんな場所に居るんですか!?」
「いや~、御手洗いに行こうと思ったら声が聞こえてよぉ…面白そうだから、みんなに声を掛けたんだ!しっかし、良かったなコマイ!!」
「そりゃ~、あれだけ大きな声で話してたら、誰だって気付くって~」
「うんうん、コマイ……良かったねぇ…」
私はさっき迄と違う鼓動と汗を感じながら、ヒイロと一緒に後退った。
「こ、コマイさん…この方達はいったい?」
「えっと、私と同じゲッスーナ伯爵家のメイドです…私の先輩方になります」
「そ、そうなんだ…何ていうか…ちょっと怖いよ…」
「気を付けてください、先輩方は彼氏がいなくて気が立ってます。ここは静かに出方を見ましょう!」
「………ぁん?」
私の言葉が届いたのか、フレッキが物凄い形相で私を振り返った。どうやらカリーナに尻を叩かれても、私の憎まれ口は健在の様である。
「そーかそーかぁ…恋愛の大先輩であるコマイ様は、流石に言う事が違いますなぁ!」
「あんなに可愛がったのに~先を越されちゃって悔しい~」
「ここは一つ、大先輩としてお手本を示してほしいなぁ…」
カリアの言葉と同時に、誰とはなく手拍子が始まった。そして小さな声が徐々に大きくなっていく。
「キ~スッ!キ~スッ!キ~スッ!キ~スッ!キ~スッ!キ~スッ!」
「コマイさんの、ちょ~っといぃトコ見てみたい!」
「さぁ、小さく3つ!(パンパンパン)大きく3つ!(パンパンパン!)」
「それキッス!キッス!キッス!キッス!キッス!キッス!キッス!」
早くなった手拍子と掛け声が耳に響き、私は思わずヒイロを見上げた。するとヒイロは真っ赤な顔をして戸惑っているようだが、その姿勢はゆっくりと屈みはじめ顔が少しずつ近付いてくる。
「ひ、ヒイロさん、この雰囲気に流されちゃ駄目です!」
「…けど…こうでもしないと終わらなそうで…」
「それはそうだけど…けど私、初めてですしッ!」
「…俺も……初めてだよ…」
「ひ、ヒイロさん!?」
「皆さん、こんな夜更けに何を騒いでいるのですッ!!」
「イヒャァッ!!!」
声の方を向くと、女性達の向こうにナーナが立っていた。




