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ちっぱいメイドは玉の輿&寿退社の夢を見れるか!?~伯爵家の下っ端メイドですが ハニトラしてこいと命令されました~  作者: 岩爺


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王国歴1669年10月22日⑨:ケツ出せぇ!!!

 空が夕闇に沈むころ、私達は男女別に2台の馬車に分乗してガストロミを目指した。シーナルがビビィと離れる事に難色を示したのだが、ビビィが「今生の別れでもねぇし、ここは男らしく快諾してくれたら惚れ直すだ」と言ったら泣きながら承諾した。

 女性陣は後続の馬車に乗り込み、進行方向に私とカリーナ、逆向きにビビィが座る。


「ところでカリーナさん、今日は落ち着いた服装ですね?」

挿絵(By みてみん)

 私の隣に座るカリーナは、初日のカクテルドレスと違った服装を身に付けていた。水色のワンピースに白のカーデガン、腰に青のスカーフを巻き、黒のハンドバッグと全体的に落ち着いた雰囲気だ。そして化粧は薄目に控えており、高楊枝も咥えていない。

 ちなみに私達の着替えだがヒイロの部屋で行った。ビビィだけはシーナルの部屋である。


「さすがに、その…キースに告白する時は、静かな服装の方がいいかと思って…」

「か、カリーナさんから告白するんですか!?」

「だ、だって…私から”さよなら”って言っちゃったから…こっちが言うしかないじゃない…」


 表情を暗くするカリーナの姿に、キースの部屋での会話を思い出した。あの時カリーナはキースの事を振り向きもせず、話を聞かずに部屋を出ていったのだ。


「あ~…確かに、キースさんから告白は無いでしょうけど…」

「ここは私が折れて、下手に出た方が良いと思うのよ。取り合えず謝って、そして『きちんとお付き合いをしましょう』って伝えるわ!」

「頑張ってください、カリーナさん!」


 カリーナはハンドバッグを握る手を震わせながら、真剣な表情で独白した。その気迫を感じ、私も拳を握って応援する。


「…カリーナさん、それでいいだか?」

「え?」


 ビビィの静かな問いに、カリーナが驚きの声を上げる。見ればビビィも真剣な表情で、姿勢を正してカリーナを見ていた。


「わたしぃ、恋愛の事は分からんねぇだども…何だかカリーナさんの言う事が間違ってるような気がするんだぁ…」

「な、何がよ…」


 カリーナが眉を歪めてビビィを見る。ビビィも目を逸らさずにカリーナを見返した。


「下手に出て謝って、こっちから交際を申し込む…どこが間違ってるって言うのよ!」

最初(はな)っからだぁ」

「何なのよッ!」


 カリーナは声を荒げて立ち上がる。しかしビビィは怯みもせず、真っ直ぐにカリーナを見た。


「男と付き合った事も無い、昨日まで処女だったヤツが私に意見するんじゃないわよ!」

「男性と付き合った回数が多ければ、経験した回数が多ければ正しいだか?私はそうは思わねぇ。今のカリーナさならば、コマイちゃんの方がよっぽど正しいと思うだ」


 断言したビビィをカリーナが睨み、その手に持ったハンドバッグを高々と持ち上げた。しかし叩きつけようとした時に馬車が大きく揺れ、カリーナは座席に尻餅を突く。


「もうッ!何なのよッ!!」

「”下手に出る”て…カリーナさ、キースさんの事を下に見てるだか?」

「!!」


 カリーナはビビィを再び睨んだが、先に視線を逸らしたのはカリーナだった。


「そ、そんなわけ」

「それじゃなして”下手に出る”なんて言うんだ?それに”取り合えず謝る”て何だ?何が問題だか話もせずに頭下げるて何だべ」


 ビビィの言葉は静かだが、その底辺には強い怒気が含まれていた。カリーナは何かを言おうとするが、唇を震わせるだけで開くことができない。


「言いたくないけど、カリーナさ…真剣にキースさんに向き合ってないべ」

「そんな事!」

「ただキースさんと付き合う事しか考えてねぇ。だから下手に出て、謝って、告白して、付き合う約束だけ先に求めようとしてる。そんなんで上手く行く訳ねぇべ?その前にもっと話し合う事があるはずだ」

「…う…煩いわね…何が悪いって言うのよッ!」


 カリーナはハンドバックを床に叩きつけると、両拳を自分の膝で震わせる。


「私から頭を下げて、全部無かった事にして、新しく話をしちゃ駄目なの!?正面から真面目に話しても男は逃げるし、だから付き合うって約束が先に欲しいのよ!何よ、これぐらい普通でしょ?女は弱いんだから、これぐらいの交渉術を使ってもいいでしょうが!!」

「…カリーナさ…女が弱いなんて言ったら駄目だぁ」

「何がよ!男はすぐ暴力を振るうし、抵抗したらもっと酷くするのよ!勝てる訳無いじゃない!だったら下手に出て、頭を下げて、縋り付くしかないじゃない!」

「そんな男だったら、捨てたら良いべ」


 ビビィの言葉に私とカリーナは固まってしまった。


「けど違うべ?暴力を振るうとか、話を聞かないとか、キースさんはそんな人でねぇと思ってるべ?好きなんだべ?だったら信頼せねば駄目だぁ。正面から真っ直ぐに目を見て、真面目に話をして良いと私は思うだ。それでもし話を逸らしたり、逃げるような男はだったらさっさと捨てるべきだべ」

「け、けど…好きなのよ…そんな簡単に」

「それは未練だべ?自分が男に費やした時間が勿体ないと思ってるんだべ?けど、それじゃ後ろしか見てねぇ。前を見ねば駄目だぁ」

「それでも一緒に居たいのよ!たとえ地獄を見ようとも、一緒に居たいの!!」

「…カリーナさ、ここで考えるだ」


 そう言うとビビィは腰を浮かし、右手をカリーナのお腹に当てた。


「女はここで赤子を育てるだ。赤子を宿すのも、産むのも女だ。男は何も出来ねぇ。男を選ぶんでねぇ、赤子の父親を選べばえぇんでねぇの?」


 カリーナは震える手でビビィの手を覆った。そしてボロボロと涙を零す。


「わ、わたし…キースの子供が欲しい…一緒に育てたい…育てたいよぉ……」

「だったら、ちゃんと話さねぇと駄目だぁ。好きだからとか、勢いだけで子供を作ったら駄目だぁ。一緒に前を向ける、話し合える仲でなきゃ絶対に駄目だべ」

「…うん……うん……」


 カリーナは座席から崩れ落ち、ビビィの膝に泣きついた。ビビィはそんなカリーナの頭を優しく撫でる。


「オラ、恋愛はした事ねぇ…だども、真剣に話してくれたシーナルの事が好きだぁ…だからオラはシーナルの子供が欲しい…一緒に育ててぇよ。そう言ったらシーナルも一緒に育ててぇって言ってくれた。だからオラは身体を許したんだ」

「…わたし…子供が産めるか不安なの…一度、流れてるから…なかなか出来なくて…」

「それこそ話し合うべきだぁ。黙ってたら嘘吐いちまった事になる。言い難い事だが、一緒に考えねばなんねぇよ」

「…うん、真剣に、誤魔化さずに話してみる…」

「そうだな、真剣に向き合う事が大切だぁ…それで駄目なら、すっぱり諦めたらえぇ。世に男は沢山要るだども、赤子の父親は一人しか居ねぇだよ」


 ビビィの言葉にカリーナが何度も頷く。嗚咽は徐々に大きくなり、鼻水を啜る音も聞こえた。


「ほら、カリーナさ、そろそろ店に着くべ。早く涙を拭いて、鼻を()めな?せっかくの別嬪さんが台無しだべ!」

「も、もう…茶化さないでよ…えっと…ブ、ブヴェヴォヴェ……」


 カリーナは床のハンドバッグからハンカチを取り出しすと、盛大に鼻を擤んだ。もう遠慮も外見も無いようだ。


「…はぁ…まさか年下に諭されるとは思わなかったわ…」

「オラも昨日までは、こんな事を考えた事も無かっただよ?」

「…シーナルさんと話し合ったんですか?」

「んだ!腹を割って何もかも話しただ。もし甘い考えなら、腹の子の命はねぇとも言っただ」

「そ、それは言い過ぎじゃ…」

「女は腹の子の命に責任がある。そして男にも責任はある。女一人で育てるのは大変だで、男にも命の重さを知らせねばなんねぇよ。そしたらシーナルさ、何があっても帰ってくるって約束してくれただ」


 私はビビィの言葉に固まった。ヒイロは私と”また会う”と約束してくれた。しかし”帰る”とは言っていない。私はまだ、ヒイロの帰る場所ではないのだ。

 そんな私の困惑を察したのか、ビビィが優しい瞳を向けてくれた。


「コマイちゃんは、そのままで良いと思うよ?ただ真っ直ぐ、ヒイロさんを見てあげて…そしたらヒイロさんも、きっとコマイちゃんの事を真っ直ぐ見てくれるだよ」

「…私、まだ良く分かりません……」

「それでえぇと思うよ?人に言われて理解した振りをするより、自分で悩んで苦しんで、それで得た答えの方が絶対に正しいだで…頑張れ、コマイちゃん!」


 ビビィは両の拳を握って私を激励してくれた。席に座り直したカリーナも、私に微笑みかけてくれる。


「分からなくて当然だと思うわ、私も今まで分からなかったんだから…けど、コマイは私の悪い所を見て、そしてビビィの言葉も聞いた。今は分からなくても、きっと役に立つ時が来るわよ!あ~ぁ、私も若い頃にビビィの言葉を聞いてたら、きっとこんな人生を歩んでないだろうなぁ…なんだかコマイが羨ましいわ…」

「だども、色々あったからキースさんと出会えたんだべ?そこは喜ばねぇと!」

「…そうね、そう思えるんだったら…私の人生も悪くなかったって笑えそうだわ」


 カリーナが赤い目で窓の外を見る。その表情は硬く、そして不安げだった。ガストロミにキースが来る保証はなく、話し合えるかも未定だ。カリーナの覚悟は決まったが結果が出た訳ではないのだ。

 私はそんなカリーナを元気付けたくて、少しだけ憎まれ口を叩いてみる。


「ふふ、カリーナさん…”若い頃に~”なんて言い出したら、まるでオバサンみたいに聞こえちゃいますね!」

「……んぁ?」


 こちらを振り向いたカリーナの顔は、想像以上に怒りに歪んでいた。泣きっ面の直後で耳から鼻まで赤い為に、その迫力は相当なものである。


「コマイ…今、なんつった?」

「い、いえ、私は”オバサンみたい”と言っただけで、カリーナさんの事を”オバサン”と言った訳ではないんです!た、確かに28歳ではありますが、まだまだ綺麗ですし、全然”オバサン”には見えませんよ!そんなに怒ったら皴が増えますって!!」

「オバサンオバサンって連呼するなぁッ!!それに”皴が増える”ですって?”できる”じゃなくて”増える”って事は、私に皴が有るって事ォ!?その口か?それとも根性か?叩き直してやるからケツ出せぇ!!!」


 私が逃げようとして席を立つと、正面のビビィが”むんずッ!”と私の腰を捕まえてきた。そしてそのまま持ち上げるとカリーナの膝の上に横置きされる。


「コマイちゃん…元気付けようという気持ちは分かるだが、言葉は選んだ方がえぇな?”口は災いの元”と言うから、今の内に直したらえぇ」

「は、反省します!今後は気を付けますから!!」

「…コマイ、私が言うのも何だけど…人間は痛い目を見ないと覚えない事もあるのよ!歯ァ食い縛れや、コマイィ!!!」



 その日、夕暮れの街角に甲高い破裂音が5回、そして美少女の悲痛な叫びが響き渡った。人々はその音の出所を探そうとしたが、誰も発見には至らなかったそうだ。

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