王国歴1669年10月22日⑥:返していいっスか?
話を終えた私は、カリーナの部屋を出て別行動をした。大した用事ではないのだが、自分の着替えを取りに出たのだ。
ちなみに借りていた服をカリーナに返したら「自由に使いなさい」と手渡された。しかし私が物欲しそうに見ていた大人パンツは「腰回りが合わないでしょ?」と却下される。試しにパンツを腰に当てて「確かに大きいかも」と言ったら殴られた。素直に返答しただけなのに物凄く理不尽だと思う。
私がメイドの寝所に入ると、そこには10人ぐらいのメイドが屯していた。昼前ともなると邸宅の清掃や昼食の準備など忙しいはずなのだが、殆どのメイドが休憩している。これは本格的に退職する気のようだ。
私に宛がわれたベッドと小タンスに近付くと、隣のベッドに寝っ転がった先輩が話し掛けてきた。メイドの仕事をする気が無いのか、シャツに短パンと普段着を着ている。
「あれ、コマイじゃん。どったの?」
「あ、フレッキ先輩。着替えを取りに来たっス」
「あ~、『天井知らず』のハニトラかぁ…大変だねぇ」
「給金が減るって言われちゃ頑張るしかないっスよ…それに楽しいですし」
私は枕の下で伸ばしていたシャツを取り出し、その皴を確認する。特に問題は無いようだ。
「楽しいねぇ…あの飲み会を楽しめるとは、コマイは肝が据わってるわぁ」
「あ~、私も1回だけ行ったけど雰囲気最悪だったし~」
「そうそう、ガストロミの料理は美味しかったんだけどなぁ…」
フレッキとの会話に近くに居たパフィとカリアが乗ってくる。みんな2つ上で、何だかんだと仲良くしてくれる先輩だ。
「…あれ?先輩方もあの飲み会に参加したんスか?」
「おぅ、行ったよ。エルフを狙ったけど相手してくれなかった」
「そうそう、ヒイロってのいるじゃん?笑顔で話しかけても返事が変だし~」
「私なんて子供狙いだったけど、舌打ちされたなぁ…」
改めて先輩方を見るが、私には劣るものの可愛い方だと思う。それぞれにそばかす、むくみ、くせっ毛と特色はあるものの、出る所は出てるし顔付きもよい。しかしキースにはカリーナが居るし、シーナルは豊満、グララブは年増でないと女性として見てくれない。ヒイロにおいては女性不信だ。先輩方にとって不運としか言いようがない。
「ま、まぁ…あの人達は変わってるっスからね。仕方ないっスよ」
「ふぅん……ところでコマイさ…どうやってあいつ等と仲良くなったん?」
「あ~それ、私も聞きたい~」
「私も興味あるなぁ…この3日間で何があったの?」
「そう言われても…特に…」
私はこの3日を振り返り、すぐに青褪める。
「飲み会で暴れて、酔い潰れて、人にゲロ吐いて、部屋に転がり込んで…翌日は朝一で土下座して、食堂で土下座して、人の部屋に謝りにいって土下座しました…」
「「「うわぁ…」」」
先輩方が揃ってドン引きする。私も思い返してドン引きした。
「わ、わたし、嫌われてませんよね!?」
「いや、知らねーし」
「いいんじゃない?まだ出禁喰らってないし~」
「私、給金の為にそこまでできないなぁ…」
「……ウゥゥゥゥゥゥゥ………グズッ……」
私が泣きながら小タンスを漁り、肌着とかぼちゃパンツ数枚を筒背嚢に入れた。他にも私服と部屋着などを詰め込む。取り合えずこれ以上嫌われない為に、身形だけでも綺麗なものを身に付けようと思ったのだ。
先輩方はそんな私の様子を見て、自分たちの小タンスを漁り始める。
「…ほれ、コマイ。持ってけ!」
フレッキから手渡されたのは、半透明な薄紅色の布地で作られた何かだった。細い紐やフリルなどが付いて、何だか大きめのハンカチのようにも見える。
「あ、あざっス……何すかこれ?」
「何って…その…ね、ネグリジェ……」
「ね、ネグリ」
「声がデケェッ!!」
驚いて声を上げた私の口を、フレッキが強引に塞ぐ。
「ね、ね、ネグリジェって……うわぁ、何か……ヤラしぃっスね…」
「ば、バカ!マジマジと見んな!まだ使った事ねぇよ!…つーか、使う機会も相手もねぇし…もしもの時の為に3Gで買ったけど、使わないまま2年が過ぎちまった…」
「な、何かすいません…」
「…その、何だ…もしコマイの役に立つようなら、コイツも嬉しいだろうしよ…」
フレッキは真っ赤な顔をしながら頭を掻く。その仕草が何とも可愛らしい。
「コマイ~、私からも~」
「これも使ってほしいなぁ…」
パフィからは綺麗な瓶に入った飴、カリアからはパンパンに膨れた巾着が渡された。飴は黄色で黒いツブツブが混ざっており、巾着は軽いので衣類が入っているようだ。
「キスの前にこの飴を舐めると口臭が抑えられるらしいよ~」
「私からは、その…マンネリになった時の為の衣装…役に立ったらいいなぁ…」
「せ、先輩方……有難く貰っていきます!!」
私は先輩方からのプレゼントを筒背嚢に詰め込む。先輩方の期待を背負った為か、何だか胸が熱くなってきた。
「それじゃコマイ、成功したら詳しく教えてな!」
「…先輩、返していいっスか?」
その後、全員に頬を強く抓られた上に荷物も返せなかった。物凄く理不尽だと思う。
カリーナの部屋に戻ると廊下でヒイロとグララブが待っていた。見ればヒイロの横には大きな旅行カバンが置かれている。
「あれ、部屋の外でどうしたんですか?」
「なに、カリーナが着替えとるんじゃ。さすがに見る訳にはいかんからの」
「そのカバンは?」
「えっと、着替えとか化粧品とかを入れてたけど…」
「どうやらカリーナ、このまま残りの日数をキースの部屋で過ごすつもりらしい」
「そ、それは思い切った行動ですね」
「まるで押しかけ女房じゃ!逞しいのぉ」
そんな会話をしていると、扉が開いて普段着のカリーナが出てきた。
「おまたせ。悪いけどヒイロ、その荷物を宿に運んでおいてくれない?」
「?…い、いいですけど…」
「私とコマイはちょっと準備しようかと思ってね。奥様を借りていい?未来の旦那様?」
「そ、そんな…それはコマイさん次第で…な、何でもないです!!」
「なんじゃ、大衆浴場でも行くんか?」
「それもいいけど、今日は奮発して個室浴場に行こうと思ってね」
「そりゃ御大尽じゃの!」
「何です、その個室浴場って?」
「それは行ってのお楽しみよ!」
カリーナはグララブから小金貨10枚を受け取ると、私と2人で馬車に乗った。




