王国歴1669年10月22日⑤:最初に言っておきます!
「…いいわ、教えてあげる…私の男運の無さと、子供が産めない苦しみを……」
カリーナはベッドに右足を上げると、その膝を抱きしめながら呟き始めた。
「まぁ、どこにでもある話よ。退屈な村を飛び出して、都会に出て逆上せ上って、タチの悪い男に引っ掛かった。弄ばれて、金を貢いで、妊娠したら稼ぎが減ったと殴られて、最後には子供も流れちゃったわ。そうして泣いてる私に男は見向きもせず、私は追い出された。そんな弱っている所に、また別の男が現れて、同じことの繰り返し……今思えばただの馬鹿な女だったって自分でも分かるわ…」
カリーナの呟く声は軽く、そして虚ろだった。それはまるで冗談の様な口調であり、そして言い慣れた冗談のように流暢だ。耳障りは良いが私の心に届かない。
「借金背負って夜の街に流れて、男を相手に媚を売ったわ。言い寄ってくる男には反吐が出そうになったけど、それでも”金の詰まった麻袋”とでも思えば我慢できた。借金も返して、やっと自分の人生を歩めると思えたけど…その頃には男に期待しなくなってたのよ。それでも優しい男に抱かれ、貢いで、捨てられて…気付けば若い子も入ってきてて、人気が無くなっててね…そんな時、コーモノに拾われたわ…」
話は綺麗に組み立てられ、テンポよく進んでゆく。徐々に声に気怠さが混じり、この話が佳境に近付いているのを感じた。
「奥様を亡くされ、学校に子供を送り出したコーモノが、妾として私を邸宅へ引き入れたわ…あぁ、これで子供でも出来れば貴族の仲間入りだ、何も心配しなくて済む…けど1年しても、2年しても子供は出来なかった…飽きてきたのかコーモノも私を抱かなくなり、今ではこの部屋で飼い殺し状態なのよ…」
最後にカリーナは聞こえる様な溜息を吐き、話を締めくくった。後には物憂げな余韻が漂う。私はその余韻が消えるまで、両手を組んで我慢強く待った。
「それで、何か問題があるんですか?」
「なっ!?」
渾身の語りが届かなかったカリーナが、驚いた顔で私を見た。私は構わず話を続ける。
「1回流れたからって、問題あるんですか?」
「だ、だからその後も何度も抱かれたけど、子供が出来なくて」
「そんなの、時機が悪かっただけでしょ?」
カリーナの頬が引き攣る。見ればグララブもヒイロも顔が引き攣っている。
「子供が出来るのは時機もあるし、相性もあります。母体に問題があるかもしれないし、オスの方に問題がある事だってあります!」
「お、オス!?」
「第一、1回で着く事が珍しいんです!同じ柵に居れても目も合わせない時もあれば、何度乗っかっても着かない事もあるんです。諦めて放牧したら勝手に妊娠してる時もあります!」
「こ、コマイさん、何の話をしているの?」
「牛です!」
「「「牛!?」」」
みんなが驚いて声を上げた。特にグララブは頭を抱え、さらに左右に振っている。
「嬢ちゃん……それは暴論ってやつじゃ…いくら何でも牛と同じに語るのは」
「何言ってるんですか、グララブさん!酪農家にとって牛は家族以上に大切なんです!育てる場所にも限りがあるし、乳が出なけりゃ家族が生きていけないんです!姉の出戻りよりも、牛の難産の方が大問題なんです!」
「姉の出戻りよりも!?」
私の熱論にグララブが口を閉ざす。ヒイロはオロオロしだし、カリーナは固まったままだ。
「姉が出戻ったって食い扶持が増えるだけですが、初産が難産で、それでもし母牛が亡くなったら経営が滅茶苦茶になるんです!……とまぁ、難産は置いといて……」
私は話を戻し、グララブからカリーナに向き直る。
「牛だって相性はあるし、何度やっても着かないし、着いても2回に1回は流れるし、ちゃんと産めるかはまた別問題です!それこそ天からの授かりもの!一人で悩んだって、どうにかなる事ではないんです!」
「け、けど…コーモノには何度も抱かれてるし……」
「父ちゃんが言ってました。”歳食ったのは勃ちが悪いし子種も薄い”って!!意味は分からないけど、コーモノ様は勃ちが悪くて子種も薄かったんです!」
「ブフォっ!!」
私の言葉にグララブが噴き出し、ヒイロは真っ赤な顔で耳を塞ぐ。カリーナは呆気に取られていたが、一気に破顔して腹を抱えた。
「ハハハッ!た、確かにフニャフニャだった!勢いも弱かった気がする!!」
「でしょ?だからカリーナさんは悪くないんです!諦める事なんて全然無いんです!」
カリーナは面白かったのか、ベッドを何度も叩いて笑い転げた。それを見たグララブとヒイロが安心して息を吐く。
暫くして笑いが収まると、カリーナは涙を拭きながら起き上がった。
「………ぁ~~~~~~、笑った笑った……こんなに笑ったのはいつ以来だろう……なんか笑ったらスッキリしちゃった…ありがとう、コマイ…」
「良く分かりませんが、役に立ったのなら幸いです!!」
カリーナの言葉に、私は頷いて大きく胸を張る。張るほど無いけど。
カリーナは呼吸を整えて、少し考えて口を開く。
「…そうね、まだ諦める事は無いのね……けど、それじゃ産めない可能性を黙ったままキースに告白する事になる…何だか裏切ってるような気がするわ…」
「それじゃ、最初に言いましょう!」
「え?……でも……それで断られたら……」
「その時はその時です!相手の見る目が無かったんです!………ヒイロさん!!」
「は、はいッ!!」
突然名前を呼ばれたヒイロは、飛び上がらんばかりに驚いて姿勢を正す。
「ヒイロさん、最初に言っておきます!私と結婚したら大きなオッパイは諦めてください!」
「わ、分かりました!…い、いや、俺はコマイさんの事が好…いえ、何でもないです…」
ヒイロの小声は聞こえなかったが、最初の返事が聞けただけで私は十分だった。
カリーナは私とヒイロのやり取りを見ていたが、口元に指を当てるとクスリと笑う。
「そうね、最初に言えばいいのね。なんでこんな簡単な事に悩んでたんだろう。隠す事なんて何もなかった。見栄を張ったって何にも良い事ないのにね」
「そうです!最初に出しちゃえばいいんです!」
「さすがコマイね!初日で盛大に出しちゃった子は、やっぱり言う事が違うわね!」
「か、カリーナさん!?」
「そうじゃの、あれほど遠慮なく出した女子は見た事が無い!」
「グララブさんまで!?」
「お、俺は全然気にしてないよ?お陰で、コマイさんとは仲良くなれたし…」
「ヒイロさん!それはフォローになってませんが!?」
オロオロする私にみんなが笑顔を向ける。私も不思議と笑顔になった。




