第4話
「で、では――」
「あ、でもクローズ嬢にはアリアの方から話して。もしかしたら……既に勘づいているかも知れないけど」
そう言ってキュリオス王子は苦笑いをする。
「……分かりました」
それはアリアも「……そうかも知れない」と思っていた。イリーナの様子を見る限り、何となくでも婚約者の変化には気が付いているだろう。
「うん、それじゃあ。僕はちょっと用事があるから」
「はい、それでは後ほど――」
アリアは王子が立ち去った後。一人で「はぁ」重いため息を吐いた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「――そう」
アリアから話を聞いたイリーナの反応は「やっぱり」というモノで、アリアは少し拍子抜けしていた様だった。
――意外にあっさりとしているとでも思われたかしら?
でも、考えてみたらアリアと出会った時には既に購買で言い争いをした後だったから「やっぱり」どころではない。
むしろ呆れ果てていた……という方が正しい。
「……」
「――あなたと初めて話をした後。やっぱり少し気になってね。調べてもらったの、リチャード様の事」
無言のままのアリアを見ながらイリーナは何事もないかの様に話し始める。購買であった事は伏せたが。
――それに、調べてもらったのは間違いじゃないし。
「そうしたら、一人の女子生徒と随分と仲良くしている事を知ったわ。私の事はないがしろにしてね」
そう、入学する前には既に知っていた……。
「正直……迷いが出たのも事実よ」
「そ、それでは……」
アリアはそれを聞いて少し焦った様子だ。
イリーナがリチャード王子の事を調べたという事は、当然その相手……ソフィリアの事も知っているという事になるからだろうか。
――よく分からないけど、彼女はこの子の知り合いなのかしら?
思えば、イリーナはアリアの事はあまり知らない。せいぜいキュリオス王子の友人の男爵令嬢という事くらいだ。
「でも、今あなたから話を聞いてその迷いも吹っ切れたわ」
これは事実だ。
「ただ、今はまだただの次期生徒会の役員同士にしては距離がかなり近い……という事くらいしか分かっていないのよね」
そう言いながらクローズは「はぁ」と重めのため息を漏らす。
これは嘘だ。正直「距離がかなり近い」という話どころではない。側付きの使用人の言葉すら聞かないくらいになっている。
「元々……お互い望んでいなかったとは言え、それでも……と思っていたのよ。正直、今は裏切られたような気分ね」
「……」
そう、これは本当に思っていた事。内心は「初恋の相手が現れたとして、それはもう過去の事と割り切るのではないか」と心のどこかでは思っていた。
――でも、そんな事はなかったのよね。
「元を辿ると結局私が悪いのよね」
「そ、そんな……。そもそもは――」
アリアが言葉を続けようとすると、イリーナはそれを「いいのよ」と言いながら片手で制した。
「原因は何であれ、私が応戦した事によって事態は大きくなってしまったもの。それは間違いではないわ」
「……」
これが事実なのだから仕方がない。しかし、アリアの様子を見る限り、どうにも腑に落ちていない様だ。
「――それにね。私はこのまま黙っているつもりはないわ。今のあなたの話を聞いて調査結果でしか分からなかった事も確信に変わったし、それに……やられっぱなしは好きじゃないの」
――私は……私の好きな様にやらせてもらうわ。もうリチャード様の言葉なんて気にしない。彼は彼で好きにやっているのだから。
それに、イリーナ自身試験で良い結果を残す事は将来的に国の役に立つだろう。少しでも箔はつけておいた方が良い。そう結論付けた。
「フフ、それじゃあ」
イリーナは軽くウインクをして「今日も魔法の練習。お願いね」と言って足取り軽く自分の教室へと戻って行った。




