第3話
貴族の婚約というのは基本的に「家」というのが大きく関わっている。
例えば仮に現在は位の高いにところにいるが、実際は没落寸前の場合。何とか立て直そうとお金のある裕福な家と婚約を結ぶといった具合だ。
もちろんこれはあくまで一例ではあるが、そのほとんどが家がらみである事に違いはない。
だから、王族であるリチャード王子ととこの国の貴族の中で最上位の公爵の家の娘であるイリーナが婚約を結ぶのは何もおかしな話ではないのだ。
「ところで、皆さんが自分たちの領に戻られたのはいつ頃かしら?」
尋ねてみると、フィーユはパラパラと何やらメモ帳の様なモノを確認し……。
「大体お嬢様がご入学されるひと月も前に戻られている様ですね」
そう言った。
「私が入学……という事は新入生が入って来る前に……ね」
多分。婚約者たちはずっと我慢していたのだろう。しかし、ずっと我慢している事も出来ず……。
――きっと彼女たちは新入生を歓迎したかったのでしょうね。
しかし、それと同時に不安も過ったのではないだろうか。
それこそ「もしかしたら、これから入って来る次期生徒会の子たちも自分たちの婚約者の様になるのでは……」と。
「はい。私も調べて初めて知りました」
「普通。学校行事でもなければ上級生とはあまり関りがないモノね……」
元々お互い交流があったワケではなかったので詳しい話を聞いたワケではない。せいぜいお茶会や夜会で顔を合わせる程度。
だから彼女たちがそんな事になっているとは思ってもいなかった。
「そういえば……」
重い空気を変えようと思ったのか、フィーユは何かを思い出したかの様にイリーナの方を見た。
「うん?」
「今日は何かあったのですか? 随分とお帰りが遅かった様に感じましたが……」
きっとこれはフィーユなりの気遣いだろうと感じたイリーナは「ああ」と頷く。
「ちょっと……お話していたのよ」
「話……ですか」
「そう。あなたも知っているでしょう? アリア・ウォーレンって言う男爵令嬢の子」
「はい」
「その子と偶然会ってね。それでちょっと話していたのよ」
「偶然……ですか」
不思議そうな表情のフィーユに対し、イリーナも少し説明に困っていた。
――言葉としては確かに「偶然」なんだけど、うーん。あんまり廊下でぶつかった……とは言いたくないのよね。
実際のところはそうなのだが、肩がぶつかった時のアリアの態度から分かる通り。男爵家の令嬢が公爵家である令嬢の肩にぶつかるというのは本来であれば土下座モノの失態だ。
「そう。本当はお友達になりたかったのだけど……困惑させちゃってみたい」
「そうでしょうね」
「彼女。勉強がとても出来る様だから教えてもらおうと思っただけなんだけど」
「ああ、なるほど」
イリーナがそう言うと、フィーユは「納得」といった表情で夕食の準備をあっという間に終わらせたのだった――。




