第2話
――誰だろう……。
彼、彼女らの前に現れた少年は「ふんっ!」と鼻を鳴らし仁王立ちをしている。一見すると随分とふてぶてしい態度だけど、それ以上に謎の自信にあふれている。
――私にも……あんな自信があったら……。
きっと両親に意見だって言えるだろう。結局、イリーナに足りなかったのはその「自信」だったのだ。
「な、なんだよ。お前」
自分の自信のなさを悲しんでいる内に何やら不穏な空気が漂い始めていた。
「お前?」
「……」
い、いくら何でも初対面の人相手に「お前」は確かに良くないだろう。しかも、それを口にしたのは主催した家の人ではなさそうだ。
――家の位で話し方を変えているのかしら? それにしたって……。
突然「お前」と呼ばれたブロンズの髪が特徴的な少年はギロッとその場にいる全員を睨む。
「な、なんだよ」
「いくらお茶会が色々な身分の人たちが一堂に会する場とは言え、他人の悪気地や陰口だけでなく話す言葉すら粗悪とは」
口元に手を当て優雅に笑っているが、その言葉の端々に嫌味が透けて見える。
「失礼。君の家では言葉……いや、話し方については指導してこなかったみたいだね。このままでは年を重ねた時に相当苦労するだろうから僕の方から進言させてもらうよ」
ここまで言って何人かの令息と令嬢は彼が何者か気が付いたのか顔を真っ青にしている。
しかし、イリーナは基本的に両親がいないときは壁の花に徹している上に悪い噂も相まってそもそも誰も寄って来ない。
つまり、イリーナは流行などにはかなり疎かった。
「進言? そんな権限がなんでお前に……」
そこまで言ってようやく気が付いたのか少年はハッとした様子で目の前の人物を見つめる。
「権限ならあるよ。少なくとも、将来問題になりそうな人材がいたのであれば、早い段階でその問題を正さねば」
少年も自分の正体に気が付いたのかニッコリと穏やかに笑う。
――穏やかな笑みが一番怖いって思う事。あるわよね。
そしてついさっきまで威勢良く嚙みついていた少年の顔は真っ青である。
――この少年は確か……伯爵家の息子だったはず。
下の位の者が上の身分にいる人たちの事を良く思わないのは実際よくある話だ。現に公爵令嬢であるイリーナの事も陰口のネタにしている。
――ただ、あの反応を見るに……。
あの少年はそれなり……いや、もしかしたらそれ以上の位の人かもしれない。
――でも、公爵家以上なんて言ったら……。
残るのは『王族』くらいだ。
「た、大変失礼致しました。ま、まさかあなたの様な方も参加されていたとは……」
「僕が参加していようがいまいがこういった場でこの様な話をするのは控えた方がよろしいかと。誰がどこで聞いているのか分かりませんので」
そう忠告しつつ、少年は不意に視線をそらす。
――え。い、今……こっちを見た?
一瞬。ほんの一瞬だけ少年がイリーナの方に視線を向け、目が合った……そんな気がした。




