第1話
「昔……それこそ国中の貴族の令嬢や令息が集めたお茶会が開かれる前から殿下と私は友人とまではいかなくてもお互い顔見知り程度だったわ」
それは初めて出会った『お茶会』の頃からの話である。
一応、クローズの母親と王妃様は同い年で同じ学校の出身ではあったが、実は仲が良かった……という事はなく、接点も特にはなかった。
「小さい頃のある日、お母様に連れられて王宮に行った時に王妃様にお茶会に誘われてね。その時に紹介されたの」
「……」
ただ、実はその頃は既にキュリオス王子とは面識があった。しかし、その事を誰かに言うなんて事はしなかった。
「私はその時。幼いながらに彼に目を奪われた。ひょっとしたら一目ぼれだったのかも知れないわね」
イリーナははそう言いながら自虐的に笑う。
そう、実は何度か手紙のやり取りをしていく内にキュリオス王子に惹かれてはいた。ただ、今となっては……そう思う事がある。
「でも、それを誰かに言う事はなかった。まだ私は小さかったし、そもそも自分の感情にも気が付いていなかった。それに、殿下はいつも私に笑顔を向けてくれていたけれど、それが実は本当の……心からの笑顔でじゃなかったって今となっては分かるわ」
「……」
そこまで話すと、アリアは何やら考え込む様な難しい顔をしている。一瞬驚いた様な顔をしていた様にも見えたのだが……。
――何か珍しい事でも言ったかしら?
ただ、イリーナにその自覚はない。しかし、その表情はまるで「まさかそんな早くに出会ったいたとは……」と言いたそうでもあった。
そして、アリアは「あの」とおずおずと申し訳なさそうな声でイリーナに声をかける。
「何?」
「なぜ……キュリオス殿下が心からの笑顔じゃなかったと思われるのですか?」
この話をしてからずっと考えたいたのだろう。だからこそ、彼女はこのタイミングでイリーナの尋ねた。
「なぜ? それはもちろん。あなたと殿下がお茶会で話している時の笑顔を見たからよ。屈託のない……年相応の殿下の姿。いつもと違うあれを見てしまったら……ああ、きっと私じゃ敵わないって悟ったの」
「で、ですが……」
――でもそれはきっと、私だけじゃない。この子以外の誰も出来なかったでしょうね。
それこそ、あの「ソフィリア」という庶民の先輩ですら。
「公爵家の力を使えば婚約出来たかも知れない。でも、私はそれ以上に彼の笑顔が見たかったのよ」
「……」
そう言って笑うイリーナに対し、アリアは何か言いたそうでは合ったモノの、見つめる事しか出来ないのか何も言わない。
――きっと、ここで下手に何かを言うのはそれこそ野暮だって思っているのでしょうね。
なんて優しい子なのだろうか。こうして「ただ黙っている」という事が「人を思いやる」という事に繋がるという事を彼女はよく分かっている様に感じた。




