第3話
「ちっ、ちなみに殿下はなんと?」
アリアはまさか自分の事をイリーナに話しているとは思っていなかったらしく、少しオロオロとした様子で尋ねて来た。
「ふふ。普通の『王子』という肩書だけに近寄って来る様な令嬢たちとは全然違うと言っていたわ」
イリーナとしてはその反応が面白くて笑ってしまったが、アリアとしてはイリーナの言葉に疑問を持った様だ。
――多分「普通」という言葉に引っ掛かりを覚えたのね。
しかし、今の言葉は的を得ていると思う。
大体の貴族令嬢はまずキュリオス王子の『王子』という肩書に近寄る。それくらい『王子』という肩書は魅力的なのだ。
――でも、この子は違う……のだけど。
「分からないって顔をしているわね」
「え、あ……はい」
「いいのよ。あなたは分からないままで。私は……キュリオス殿下の言いたい事が何となく分かった気がしたから」
「え」
そう言ってイリーナは穏やかな笑みでアリアを見つめる。
――きっとそれが殿下が彼女に惹かれた一番の理由だろうから。
もちろん、彼女の絶大な魔法の力にも惹かれただろう。しかし、それはあくまで一部のはずだ。
「私も……王族ではないとは言え、公爵家の人間だもの。やっぱり家の名前……権力にあやかりたいという人たちはいるわ。いえ、むしろほとんどがそうね」
「……」
「だからね。あなたみたいな人は本当に珍しいのよ」
「珍しい……ですか」
ただ、やはり分からないのかアリアは首をひねり、イリーナの様子を窺っている様に見える。
――警戒されている……のかしら?
確かに、彼女は男爵令嬢でイリーナは公爵令嬢。同じ『貴族』とは言え、立場としてはイリーナの方が上だ。
そんなイリーナの一言一言が彼女にとってはかなり重いモノだというのは良く分かるのだが……。
――そんなに警戒しなくてもいいと思うけど……。
そこでイリーナはさらにあくまで「自分としては」という考えを話した。
「あなたは権力とかそういった事に巻き込まれるのはごめんだと思っているのでしょう? 正直に言うと、そういう人たちの方が私や殿下にとっては信頼出来るのよ」
「信頼……」
アリアがそう小さく呟くと、イリーナは「ええ」と頷く。
「いくら口で『信頼しています』と言われても、いつ手のひらを返されるか分からない。信じられない。もしかしたら本心じゃないかもと思ってしまうから」
「その点私は信頼出来ると?」
「あなたは最初。殿下の友人になる事を拒んだそうね」
「は、はい」
そう尋ねると、アリアは一瞬戸惑いつつも頷いた。
「普通であればいくら階級が低くても飛びつく話なのに、むしろあなたはそれを理由に拒んだ」
「……はい」
「多分。殿下にとってはそれがさらにプラスになったのだと思うわ」
イリーナの言葉にアリアは思わず「え」と驚いた。
それはまるで「そう言えば関わる事もなくなるだろう」と思っていたと言わんばかりだ。
でも、その結果は……今の状態。
いくら本人はそう考えたとしても、現状キュリオス王子はアリアを気に入り「友人」として一緒に行動する様になった。
「殿下はね。自分の知っている令嬢とは全然違うあなたに興味を持って、多少強引な手を使ってでも友達になりたかったんだと思うわ」
「……」
「その過程は私は知らないのだけど……今の殿下はいつも楽しそうだわ」
イリーナはそう言いながら以前、偶然キュリオス王子と出会った時の表情を思い出した。
「――今の……ですか?」
「ええ。昔の殿下は……いつもどこかつまらなさそうな顔をしていたから」
イリーナはそう言いながら出会ったばかりの頃のキュリオス王子を思い出したのだった――。




