第3話
――え、なんで?
正直、イリーナにリチャード王子からこんな感情を向けられる様な事をした覚えはない。
いや、そもそもここ最近に至っては会ってすらいない。生徒会活動にかこつけて会ってくれないだから。
――彼女には毎日と言っていいほど会っているはずなのに。
むしろ怒って良いのは婚約者であるはずのイリーナの方のはずだ。
「ごきげんよう、殿下。どうされたのですか?」
「なぜ? と言いたそうな顔だな」
リチャード王子は鼻で笑いながらそう言ってイリーナを小馬鹿にした様な態度をとる。
――挨拶の返しもなしに突然何よ。
そう心の中で思ったが、こんなところで感情を出してはとても未来で王妃は務まらないだろう。
――殿下も前はこんな人ではなかったのに。
多少直情的なところはあったものの、ここまで態度に出る様な人ではなかった。
「ええ。覚えがありませんもの」
「……本当にか?」
「ええ」
怪訝そうな表情を見せる王子だが、本当にイリーナに身に覚えはない。
「では聞くが、数日前。ソフィ……ソフィリアが廊下でぶつかった時にお詫びの品として『チョコレートクッキー』を渡そうとしてそれを拒否したそうではないか」
「……」
――ああ、あれか。
イリーナはリチャード王子が何を言っているのか分からなかったが「チョコレートクッキー」と言われて思い出した。
――それにしても……。
それよりも気になったのは最初の「ソフィ」と言う言葉だ。どうやら二人はもう既に名前でお互いを呼び合うほどの仲になっているらしい。
――随分と仲が良いのね。
学校内では身分の差はないモノとされているが、それでも考えなくてはいけないところはあるとイリーナは考えている。
「ええ。いくらお詫びの品とは言え、得体の知れないモノをもらう訳にはいきませんもの」
「得体の知れないモノだと?」
正直、相手が相手なだけに……という気持ちもあったが、それをあえて口にする必要はないだろう。
「ええ、得体が知れなければ口には出来ません。捨てるのが分かっているのにもらっては勿体ないでしょう」
「……そうか」
イリーナとしては「貴族として当たり前」の事を言ったつもりだったのだが、リチャード王子はあまり納得していないらしい。
――そうでしょうね。あの人の様子を見た限り、殿下は何度も『チョコレートクッキー』を召し上がっていた様だから。
しかし、それはあくまでリチャード王子の話であってイリーナには関係のない話だ。
「では、ソフィリアに対する嫌がらせはそんな得体の知れないモノを渡そうとしてきた事に対する報復か?」
リチャード王子の思わぬ問いかけに、イリーナは思わず「え?」と目を丸くしてその場で固まった。




