第3話
――確かに殿下なら……。
自分自身が「王族」という唯一と言っても良いくらい分かりやすくイリーナの家の位「公爵」よりも上の立場だ。
ただ、そもそも魔法学校では一応「学校内では貴族も庶民も関係なく、それこそ貴族の位も関係ない」という形式になっているため、本来であればここまで気にしなくても良い。
しかし、一応そういった形になっていても、やはり気にする人は気にする。特に「元々は庶民」という人は。
それが今のイリーナにとっては大きな障害となっていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
授業が終わり、次の授業のために廊下を歩きながらふと考える。
「……」
先程まで「キュリオス王子に相談してみる」と考えていたが、今のキュリオス王子は基本的にアリア男爵令嬢と共に行動をしている……というのはイリーナも知っている。
――やっと一緒にいられる機会が増えたのだもの。出来れば一緒にいたいわよね。
その気持ちはよく分かる。だからこそ「お願い」をしていいものか。お邪魔にならないだろうか……と気持ちにブレーキがかかってしまう。
――言ってしまえば、これは自分自身の問題だものね。
元々は今まで人脈を広げなかった自分の責任。そんな自分の責任を棚に上げてお願いをするのも……というちょっとした恥ずかしさもある。
――とは言っても、他にお願い出来る人がいないのよね。
「はぁ……」
そう小さくため息をついて立ち止まった瞬間――。
「きゃっ!」
「?」
突然後ろから誰かが当たった様な衝撃を受け、イリーナは思わず前によろめいた。
――なっ、何?
あまりに突然の事で驚きつつも振り返ると、そこにいたのは一人の女子生徒。ただの普通の女子生徒であれば、イリーナも特に気に留めなかったかも知れない。
しかし、振り返ったイリーナに対してパッと顔を上げたその女子生徒にイリーナはすぐに誰か気が付いた……。
「……」
そう、それはリチャード王子の初恋の相手。そして、現在の生徒会メンバーに媚びを売っているとされている庶民の『ソフィリア・クロイツェフ』だった。
「ご、ごめんなさい。前を見ていなくて……」
リチャード王子に婚約者がいて、それがイリーナである事は結構有名な話だというにも関わらず、その女子生徒は最初こそ申し訳なさそうな顔で謝罪したものの、すぐに「お詫びにコレをあげます」とニコッで「ある物」を渡そうとしてきた。
「……いいえ。お心遣いはありがたいですが、結構です」
そう答えると、その女子生徒は「えぇ」と驚きの表情を見せる。
「……」
――なぜかしら、この子の笑顔を見ると……無性に腹が立つわ。
どうしてなのかは分からない。今の「ぶつかられた」という事の後だからというワケでもない。
しかし、普通であれば「かわいい」と思われるはずの彼女の笑顔が……イリーナには無性に気に入らなかった。
「……リチャード様も好きなのに」
「!」
彼女としては何気なく言った言葉だったかも知れない。ただ、イリーナにはその何気なく言った「小さな一言」がやけに大きく聞こえた。




