第1話
話では聞いていた。だから『いつかは殿下と初恋の相手が一緒にいるところを目の当たりにする事になる』そんな日が来る事くらい分かっていた。
――でも、まさかこんなに早く目にする日が来るなんてね。
二人の姿を見たのは本当に「偶然」だった。
それこそ「いつもはこの廊下を通っていくけど、今日はこちらを通ってみようかしら?」くらいの気持ちで移動教室の為にその廊下を通っただけ。
ただ、それだけ。
仲良さそうに話している二人を見かけたイリーナはすぐにそのふたりから目を背け、そのまま廊下を渡った。
「……」
イリーナが本当に『悪役令嬢』であれば、ここで二人に自分から話しかけていただろう。
それこそ「婚約者の私を差し置いて」という気持ちで。
でも、イリーナにはそれをしなかった。
それは「話に聞いていた」という事が要因として大きかったと思うが、それ以上に……。
――正直、何とも思わなかったのよね。
二人は「生徒会」だ。わざわざ言いに行ったところで「生徒会について話していた」とでも言われてしまえば反論も出来ないのでそれまでである。
――その割には……随分と顔を赤くさせていた様だけど。
話せる事自体嬉しいのかは知らないが、少なくとも「生徒会」の話だけの為にわざわざ中庭の方まで足を延ばす必要はないだろう。
何せ、二人の教室からこの中庭まではそれなりに距離があるのだから。
――私となんて全然会ってくれないと言うのに。全く。
最後に会ったのはいつだろうか……。
入学式の後、リチャード王子は会いに来てくれなかった。自分から会いに行く事も出来たが「忙しいかも知れない」と思い、それも出来なかった。
だから、それくらいイリーナはリチャード王子と会っていなかった。それこそ「生徒会が――」とか色々と言われてなかなか会ってくれない。
――もういいのだけどね。
この状況はきっと国王陛下の耳にも入っているはずだ。たとえ王子が使用人に口止めをしたとしても。
何せ、彼には使用人とは別に『監視役』が付いているのだから。
――きっと殿下は気が付いてないのでしょうけど。
それくらい『監視役』は隠密鼓動に長けている。
――でも、それくらいすると普通は知っていると思うけど。
そんな正常な判断が出来ないくらい「恋は人を狂わせる」というのだろうか。イリーナの知るリチャード王子であれば、自分の立場を十分理解して行動すると思っていたのだが。
――きっと、私の知る殿下はもういないのね。
「さて」
気を取り直して移動した教室に入ると、一斉にイリーナの方に視線が集まって様な気がした。しかし、その視線はすぐに元に戻った。
――分かりやすいわね。
実は、イリーナが下位のクラスに振り分けられてからというモノ。いつもこんな感じだった。
――どう接したらいいのか分からないって感じね。
基本的に上位のクラスに入るのは幼少期からずっと魔法の練習をしてきた貴族で、下位のクラスに入るのは庶民や位の低い貴族が多い。
だからこそ、公爵令嬢で王子の婚約者であるイリーナは……クラスでかなり浮いた存在になっていた。
――まぁ、無理もないわね。
ちなみに、入学当初はイリーナに引っ付ていた令嬢たちは試験結果を受け、すぐにイリーナから距離を置き、あっという間に「王子の婚約者が下位クラスですって」などと陰口を言う様になっていた。




