第1話
そうして、魔法学校に入学が迫ったある日――。
「ふぅ」
「失礼致します。大丈夫ですか?」
寮に入る為に荷物を詰め終え、大きくため息をついていたイリーナに対し、フィーユは心配そうな表情を向ける。
「ええ。大丈夫よ」
「――いよいよですね」
「ええ。もう三日後には入学式ね」
「あっという間……ですね」
「きっと入学したらあっという間に卒業になるわよ」
そう言いつつイリーナは「フフ」と笑う。
「正直『魔法の実践』って言うと、今も苦手意識があるのだけど、そうも言っていられないでしょうし、むしろいい機会がだと思っているから」
「あ、あれはお嬢様のせいでは……」
イリーナが荷物を詰めたカバンに手を添えながら懐かしそうな顔で話すのを眺めていたフィーユはイリーナがいつの事を言っているのか悟り、そう言うと……。
「いいえ。あれは私の幼さなさが故に起きてしまった事だもの」
「で、ですが」
「貴族の間では『あの一件によって私がリチャード殿下の婚約者になる事を決定づけた』という事になっているみたいね」
「……」
苦笑いを浮かべながらそう言うと、フィーユは無言になった。
――実際はそれよりも前から婚約者の話は出ていたらしいけど……。
実はイリーナの言う『ある件』が起きた時はまだ「婚約者の話」が出ている程度で、本格的な話はまだ進んでいなかった。
しかし、リチャード王子の体調が回復した随分後に発表した為、変な印象を持たれる結果になったのは事実だ。
「キュリオス殿下もきっと『あの一件によって私が兄の婚約者になった』って思っているでしょうね」
「……多分、そうだと思います」
それくらい。インパクトの大きい「事故」だった。
「全く。私がリチャード殿下の婚約者になったのは、あの一件から随分後だと言うのに」
「ですが、実際のところ。あの一件によって婚約者の話はより一層進んだとみて間違いないかと」
「――それもそうね」
それは確かにそうだ。
実際、イリーナの魔法の力はかなり強い。ただ、魔法そのものの素質はあるにも関わらず、その力を十二分に発揮出来ていない。
それはイリーナ自身もよく分かっており、入学試験でもそれは「結果」として表れている。
――わざわざ殿下がおっしゃらずとも私が上位の生徒に入る事はない。ましてや生徒会なんて……。
それくらいイリーナは「魔法実践」を苦手としていた。
「何か……少しでも変わると良いのだけど」
自信なさげに言うイリーナに対し、フィーユは「大丈夫です」と自信満々に答える。
「何せ魔法学校ですから」
「フフ。何よ、それ」
「それに、お嬢様は全く魔法が使えないワケでもなく、魔法を使えていたので……きっと大丈夫です」
「……そうだと良いけど」
そう。イリーナは決して魔法が使えなかったワケではなかった。幼少期はむしろ同年代の子よりも出来ていた。
しかし『ある事故』によって、イリーナは「魔法を使う事」に苦手意識を持つ様になってしまったのである。




