第3話
「お帰りなさいませ。お嬢様」
フィーユは私の姿を確認すると、馬車の扉を開けて待っていてくれた。
「ごめんなさい。待たせちゃって」
「いえ」
フィーユはそう言って顔色一つ変えなかったが、お茶会が終わった事は王宮の使用人から伝えられていたはずなのでキュリオス王子と話をしている間ずっと待たせてしまっていた。
――本当に申し訳ない。
そう思いながら急いで馬車に乗り込み、フィーユはイリーナが乗ったのを確認して同じ馬車に乗り込んだ。
貴族の中には「使用人なんだから主人を待つのは当たり前」と思っている人間もいるが……というよりほとんどの人間がそうなのだが、イリーナは違った。
それは幼少期に使用人が盗まれた……というのも一つの理由だった。
――みんな。同じ人間よね。
生まれや育ちは違うモノの、みんな「感情」と呼ばれるモノは持っている。それは幸せとかに限らず嫉妬や妬みも当然含まれているだろう。
――あの人たちは……そんな一時の感情と「私が子供だから何も気が付かないだろう。気が付いても言わないだろう」って思ったのでしょうね。
そう今となっては思う。
なんて事を考えつつ、次にイリーナの頭を過ったのは先ほどのキュリオス王子の言葉だ。
「……」
――危なかった。
『何か……あったのかい?』
リチャード王子と婚約して以来、キュリオス王子とは会う事はおろか文通すらしなくなった。
それはイリーナの中で一つの「けじめ」の様なモノで、リチャード王子と向き合う為に決めた事でもある。
――でも、結局「逃げ」だったのよね。
キュリオス王子の事を忘れるために……。
だから、自分から意図的にキュリオス王子と会わない様にしていた……とも言える。
――でも……意外と普通に話せたのよね。
そう、久しぶりに会って話したが、意外に緊張する事もなく、ごくごく普通にそれこそ「友人と話す様に」話せたと思う。
――自分の心境の変化……なのかも知れないわね。
彼と話す前。イリーナはキュリオス王子が楽しそうに令嬢と話しているのを見た。
以前であればもう少し違った感情を抱いていたかも知れない。しかし、あの時は……比較的穏やかに見る事が出来た。
「お嬢様?」
「?」
「どうかされましたか?」
「え? 何もないわよ?」
そう答えたのだけど、フィーユは無言で「本当ですか?」と言った様子でイリーナを見つめる。
「本当に何にもないわよ」
そう「何もない」のだ。
いつも通りにサッサとお茶会は終わり。キュリオス王子と令嬢が仲良さそうにしているのを見て穏やかな気持ちで見て、その後少しだけ王子と話しただけ……。
たったそれだけの事なのだ。
――むしろ。殿下が苦戦しているのがちょっと笑えてしまったくらいかしら?
それが少し……ほんの少しだけ「羨ましい」とも思えなくもないが、本当にそれだけの話なのである。
「それよりも、家に帰ったら色々と準備をしないといけないわね。あっという間に魔法学校に入学になるもの」
「……そうですね。お屋敷に戻りましたら取り掛かりましょう」
イリーナの表情を見て、フィーユはどことなく安心したらしく、イリーナの言葉に頷いて答えた。




