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悪役令嬢にそんな『力』はありません!  作者: 黒い猫
第九章 王子である事にて
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第3話


「それは……ありがとうございますと言えば良いのでしょうか?」

「フフ」


 ――困惑しているわね。


 でも、これは本当の話。


 フィーユがいなければきっとイリーナは今も一人で悶々と考えていたはずなのだから。


「ええ、そう言えばいいわ。ありがとう」

「いえ」


 そう言ってフィーユは頭を下げる。


「とりあえず、これからも王子の周辺で何かあったら報告はして欲しいのだけど……」

「はい、かしこまりました」


「後は――」


 ――先に入学している令嬢たちの動きが気になるところね。


 今のところ。何か大きな動きをしているワケではないが、もしかしたらイリーナの名を使ってその初恋の人に嫌がらせを仕掛ける可能性は十分ある。


 ――こういった場合って、最初の内はちょっとしたモノで段々とエスカレートしていくモノだから……。


 出来れば早い内に手を打ちたいモノだ。


「令嬢たちの動きも気になるところね」

「――今のところは大きな動きはありませんが、確かにその懸念はありますね。かしこまりました」


 そう言ってフィーユはイリーナの部屋を後にした。


 ただ、実はこの世界の大本であるゲームの元々の設定ではイリーナやアリア。キュリオス王子と主人公は全員同じタイミングで魔法学校に入学するはずだった。


 ではなぜ設定とは違い主人公が先に魔法学校に入学する事になったのか……それは一言で言うと「主人公も実は転生者で、効率を重視したため」である。


 つまり、主人公として転生した人物は本来のゲームでは出来ない攻略者全員を攻略するために、アリアと同じように自称「神」に年齢を一つ上にしてもらう様に願い出たのである。


 確かに「一年」とは言え、この一年先に入学していれば本来であれば一年先に入学している攻略キャラクターとは仲良くなれる機会は増えるだろう。


 そして、アリアとして転生した人物は「神」の独断と偏見で勝手にオプションを付けられ、そのオプションのせいで色々と困る事になるのだが……。


 しかし、そんな事をイリーナは知る由もない。


 とりあえず、今のイリーナとしては「自分の知らないところで勝手に悪い意味で自分の名前を広められる事」だけは避けたかった。


 ――これが少しは抑止力になればいいのだけど。


 実はゲーム内でのイリーナはこれをしなかった。


 それは彼女も心の中で「人の婚約者に色目を使っているからよ」と言う気持ちがあったからである。


 ――まぁ、思うところはあるわ。


 しかし、今のイリーナの視線はどちらかと言うと婚約者のリチャード王子ではなく、自分の方に向いていた。


 それはリチャード王子の視線が自分に向いていない……。今日ハッキリと分かったからである。


 ゲームでは「それでも!」と躍起になるのだが、この時のイリーナはそこまで「婚約者」に執着心しなかった。


 そしてこの心情の変化はこの時点で本来であれば「悪役令嬢」になってしまうはずだった彼女自身に大きな変化をもたらした結果だった。

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