第2話
元々、イリーナに選択肢はない。
それは「俺がこう言ったのだからこうしろ!」とか言う話ではなく、どちらかと言うと、ここではやはり『身分の差』や性別も関係してくる。
リチャード王子は確かに「こうすべきだ」と言うタイプで、キュリオス王子の様に「こうした方が良い」というタイプではない。
――まぁ、その代わりキュリオス王子の場合。本人が言ってきている時点で外堀が埋まり切っている状態だけど。
つまり、それはそれで結局のところ。選択肢はあってない様のモノである。
だから、今回の「テストで上位に入らない様にしろ」という話が出た時点でイリーナはそれに従うしかない。
――むしろ殿下が「婚約者が俺の一年の時よりも良い成績を取られたない」と言ってくれた方がまだ殿下らしいという気もするけれど。
人によっては「それはそれでどうなんだ?」と言うかも知れないが、正直。こちらの方がリチャード王子らしい。
もちろん。子供っぽいと言う人が大半だろうが、この子供っぽいところがまたリチャード王子らしさでもある。
家に帰って一人今日リチャード王子から言われた事を振り返りその時の王子の様子を思い出した。
――誰かの入れ知恵……かしら?
子供っぽいところがありはしても、決して頭が悪いというワケではなかったはずだ。
――ううん。さっきも感じた違和感だけど、入れ知恵というよりこれはむしろ……。
「誰かに頼まれた……と考えた方が良いかも知れないわね」
あの時の王子はイリーナの方は見ず、視線をティーカップの方に向けていた。
いつもであれば、お互い目を見つめ合って最終的にイリーナの方が我慢出来ずに目を逸らすというのに……。
――気まずい空気って……あんな感じよね。
今日のリチャード王子は落ち着きがないというか、どことなく早く切り上げたいといった雰囲気だった。
――やっと……ちょっとは距離が縮まったと思ったのに。
思えば婚約が決まった後も、どことなくイリーナとリチャード王子の間には距離があり、お茶会をして会っても気まずい空気が流れていた。
でも、それは仕方ない話だったかも知れない。
片やもう二度と会えない相手を想い、片や婚約者の弟に叶わない想いを持つ者。お互い「叶わない」と分かっているのに捨てられない者同士。
――私は顔を知らなかったけど、殿下は……知っていたから尚更気まずかったわね。
傷の舐め合い……とまではいかなくても、そんな二人でお互いがそういった状況だと分かり切った上で婚約したにも関わらず、どうにもお互いがお互い距離を詰め切れずに時間だけが経っていた。




