第1話
「……え。今……何とおっしゃいましたか」
まさか……という出来事は、やはり突然起きてこそだとイリーナは思う。
でも、それと同時に「何かしらの前触れが欲しい」とも思ってしまうのは……そういった状況になってから思ってしまう。
――だって、心臓に悪いから。
そう思いつつ目の前にいる人物……いや、婚約者を見る。
「……」
基本的に黙っていてもイリーナはどうにも相手を怖がらせてしまうところがあり、その上あまり表情を変えないが、今は自分でも「ありえない」という表情をしているだろうと分かる。
しかし、もはや定番となった王宮のお茶会中に婚約者であるリチャード王子に言われた事にはどうしてもそういった表情をしてしまった。
――いや、でも……ねぇ。いくらなんでも。
「今言った通りだ。今年からイリーナは魔法学校に通う事になるが、最初に行われるテストでは上位に入らない様にして欲しい」
魔法学校では定期的にテストが行われ、特に最初のテストでは上位の成績を修めた者は余程の事情がない限り生徒会に選出される様になっている。
――別に生徒会に興味はないけれど……。
イリーナは魔法実技に不安が残るものの、筆記試験に関しては幼少からの知識欲……というより環境もあってかかなりの自信があった。
――それに、魔法学校の試験は実技の方に重きを置いているから、正直筆記だけで生徒会に入れるかは……。
正直微妙なところ。そもそも、意図的に自分の成績を下げる。偽るという事にはどうしても抵抗があった。
「――何か理由でもあるのですか?」
そう尋ねると、リチャード王子は「ああ」と頷く。
「今、イリーナは王妃教育も並行して行っているだろ。そこに魔法学校の勉強。その上生徒会に役員になれば、負担が増えるだろう」
「……そうですね」
確かに、イリーナは現在将来的に国王になるリチャード王子を支える為に様々な勉強をしている最中だ。そんな中で生徒会になればその仕事もやらなければならない。
――今も確かに大変と言えば大変だけど、それは殿下にも言える事では?
口には決して出さないが、そんな疑問が過る。
なぜなら「イリーナの負担が増える」と言っている張本人が生徒会の役員だからである。
イリーナよりも一年早く魔法学校に入学したリチャード王子は学校の勉強だけでなく国王になるための勉強もしつつ生徒会の仕事もこなしている。
――実際に自分が生徒会の役員を一年経験してみて「大変」だと思っての提案なら……確かに優しいとは思うのだけど……。
その時はなぜかイリーナにはそれが「優しさとは別の何か理由がある」様にしか思えなかった。
――少し……フィーユに調べてもらおうかしら。
そう思いながら「分かりました」とひとまずリチャード王子の提案に従う事にしたのだった。




