第3話
「それは……そういった文通をしたい方がいらっしゃる……という事でしょうか」
話の流れからして……きっとそうだろう。
「……」
王子は決して口には出していない。しかし、顔を背けた王子の表情は……そう言っている様に見えた。
――きっと、言えない理由があるのでしょうね。
それはきっと相手が庶民だから……という事や、自分の立場を考えた上で……という事もあるのだろう。
――こういう時の『身分』って面倒よね。
しかし、この『身分』が自分たちの思っていた以上に大きな障害になる事もある。
――育ってきた環境によって価値観の違いも出てくるでしょうし、それが積み重なって悪い方向に行ってしまう事もある。
その結果。愛し合っていたはずなのに、すれ違いが起きてしまう原因になる可能性もあるのだろう。
――もちろん、全員がそうとは言わないけど。
「もう終わった話だ。たった一度しか会って話していない相手の事をずっと思っていても仕方ないだろう」
「そうでしょうか?」
「?」
「思うだけであるのなら……それは別に構わないと思います」
これはあくまでイリーナの意見だ。
「……意外な答えだな」
「それは……私を『悪役令嬢』だの言う方たちの話を聞いたからでしょうか?」
そう言うと、王子はバツの悪そうな顔をする。
――随分と顔に出やすい人ね。
この素直さが将来的に悪い方向にいかない事を願いつつカップに手を伸ばす。
「――私は自分をそう思った事はありません。周りの方たちは私のこの顔をとちぐはぐなこの格好を見て陰でコソコソと話している様ですが」
「……そうだな。俺も今こうして話していると、確かに周りの連中の話していた人物像とはかなり違うらしい」
「認識の違いに気づいていただければそれでいいです」
「それで……俺は思い続けていいのか?」
「思い続けるだけならば……はい」
「……そうか。それじゃあ、君も思い続けるのは許可しよう」
「ありがとうございます」
「いや、礼を言うのはこっちだ。それに、俺はもう会えないだろう」
――そもそも、庶民の彼女とリチャード殿下が再開出来る事なんてほぼないに等しいものね。
そう、二人が再開出来る可能性としてはせいぜい「魔法学校に通う」といった事くらい。ただその為には魔法の才能が必要不可欠になる。
それを踏まえて考えた上だった。
でもそれはもちろんリチャード王子も承知の上で話したのだろう。
「だが君は……」
「いいんです。私は。彼が笑っていられるのであれば」
「随分と、大人だな」
「ご冗談を。私は自分が傷つきたくないだけの臆病者ですよ」
そう言って小さく笑い、お茶会は終了した。そして王子とイリーナはお互い「大きな問題はない」という事でその日の内に婚約が成立した。
しかし、この時の二人はまさか魔法学校でその「思い人」と再会する事になるとは……全く思いもしていなかったのである。




