第2話
イリーナの婚約者として挙げられた『リチャード・エリオット』は、この国の第一王子で王位継承権にもっとも近いとされている人物だ。
――この話を聞いて両親はすぐに飛びついたでしょうね。
何せ相手は王位継承権第一位の王子。ただの王家との繋がりだけでなく王太子……とはまだ明言されていないモノの、将来的にそうなるのは固いと目されている人物との婚約となれば、権力大好きな両親はさぞ喜んだに違いない。
きっと陰では「役立たずだと思っていたけど、こんなところで役に立つなんてね」とか言っていそうだ。
――でも、リチャード殿下か……。
「失礼致します……?」
「どうかしたの?」
「いえ、何やら悩んでいる様に見えましたので」
「ああ。フフ」
――本当に人をよく見ているわね。
専属のメイドにフィーユを迎えてから。イリーナはそう思う事が増えた。
元々幼少の頃にメイドが勝手に装飾品などを漁られて以降。使用人に対しても心を閉ざして表情も硬い事が多いイリーナだったが、フィーユはそうしたイリーナのちょっとした言動から色々と察してくれていた。
――もちろん。私もそれに甘えてはいないのだけど。
ただ、それでも理解者がいてくれるのはありがたい。
「ご婚約……の話でしょうか」
「ええ、まぁ……ねぇ」
そう言いながらイリーナはふとフィーユに尋ねたい気持ちになった。
「はい」
「あなたから見て……リチャード殿下はどう思う?」
「どう……とは」
「かっこいいとか……カリスマ性がある……とかそういう感じかしら?」
そう言うと、フィーユは少し考えこんだ。
――あ、あら?
このフィーユのリアクションは想像していなかった為。イリーナは少し面食らった。
――てっきり「ええそうですね」ってすぐに言うと思ったのだけど……。
「……」
どうやらイリーナの知らない話なのか、フィーユは「これを話していいものか」と悩んでいる様にも見える。
「――何か……知っているの?」
「……」
そう言うと、フィーユは観念したように小さく頷いた。
「それってもしかして、リチャード殿下の事かしら?」
「はい。ですが……」
「何?」
「じ、実は。リチャード様は現在貴族のご令嬢ではなく、庶民の方と懇意にされている……という話を聞きまして」
もちろん、使用人であるフィーユが「そういう話を聞いた」というだけでは「噂話」の域を出ない話ではある。
ただ……。
――キュリオス殿下はまだ貴族だった。でも、まさか庶民だなんて……。
まだ婚約の話はまとまってはおらず、何か書類を交わしたワケでもない。そこでイリーナは……。
「フィーユ」
「はい」
「あなた、前の職業についてあまり話さなかったけど……その。調べものって……得意……かしら?」
そう尋ねると、フィーユはいつもの無表情ではなく、口の端を上げて小さく笑い「はい。ご命令とあれば」と答えた――。




