第2話
「い、今の……」
――魔法? でも……。
一つ「可能性」としてイリーナの脳裏に浮かんだのはちょっと前に読んだ書物の内容。
――違うって言いたいところだけど、明らかに「普通」ではないわよね。
そう、イリーナの知っている「普通の魔法」とは随分と違う様にも思える。公爵令嬢であるイリーナも将来的には魔法学校に通う予定ではある。
しかし、既に魔法の適性がある事は分かっているものの、本格的に学ぶのはまだ先。しかも、イリーナの記憶では先程の令嬢の様に「感情の高ぶり」で魔法を使えるような人間を見るのは初めてだった。
「……」
たった今見た光景に絶句していたものの、偶然とは言え見てしまったのだからこのままこの貴族たちをそのままにしておく事は出来ない。
――さて、どうしたものか……。
「なっ、何。今の……」
「!」
そんな時、イリーナがいた場所から違うところから声が聞こえ、思わずすごい勢いで振り返った。
その人物は……。
「あ、ごめん」
「殿下でしたか」
ここは比較的人通りが少ない通路だ。しかし「人通りが少ない」というだけで全く人が通らないというワケではない。
つまり、先ほどの令嬢は「誰も見ていないだろう」と勝手に思い込んでしまっていたのだろう。
「ところで、さっきの……見た?」
「はい」
「あれって、魔法……なのかな?」
「その可能性が高いと思います」
「でも、魔法を使う前の兆候みたいなのはなかった」
「……」
そう言いながらブツブツと呟くキュリオス王子にイリーナは無言で目の前の光景に目を向ける。
多分、キュリオス王子は少し魔法の勉強を始めたのだろう。だからこそ、どことなく目を輝かせている様に見える。
「家にある古い書物の中に、優れた魔法の才能を持つ人の中には幼少の頃。感情的になった時。魔法を発動させてしまう事があるそうです」
「へぇ。そうなんだ」
「しかし、そういった人はなかなかいないそうですが」
「だろうね。僕も初めて見たよ」
そう言って目を輝かせているキュリオス王子の姿を見て、イリーナは心のどこかで「あ、殿下は……この子に興味を持った」と感じた。
だって、イリーナだって最初は似た様な雰囲気だったから。
――私の場合は偶然居合わせてしまったからだけど。
今回は「キュリオス王子がこの現場に居合わせた」という形だ。
「先程のご令嬢は一体……」
「ああ。彼女は『アリア・ウォーレン』と言って古くから優秀な魔法使いを輩出している男爵家のご令嬢だよ」
「男爵……ですか」
――でも、あれだけの魔法の才能があれば……。
将来的にはもっと爵位が上がってもおかしくないだろう。それくらいこの国で「魔法の才能」は大きな意味を持つ。
「とりあえず、今はこの状況をどうにかしないと……ですね」
「そうだね。彼らには色々と話を聞きたいし」
何気なくキュリオス王子はそう言うけれど、イリーナにはその時の王子の目の奥が笑っていない様に見えた。
――色々……ねぇ。
その書物には「そういった感情の高ぶりで使用された魔法には様々な効果がある」と書かれていた。
――この魔法はどう見ても「氷の様に対象を固まらせる魔法」でしょうから……はてさてどんな効果があるのやら。
「どうかしたのかい?」
「いえ。何でもありません」
不思議そうな表情を浮かべる王子に対し、イリーナは「フフ」と小さく笑って答えるだけだった。




