第3話
「……」
キュリオス王子が姿を見せた瞬間。イリーナは自分の出る幕ではないとすぐに察した。ここは王子が場を収めた方が良さそうだ。
――そもそも私が出しゃばる様な場面じゃないわ。
ただ、もし誰もいかないのであれば……くらいには思っていたが。
「入り口の前で何を騒いでいるんだい?」
「もっ、申し訳ございません!」
それに、キュリオス王子はイリーナと同い年のはずなのに既に王族としての立ち振る舞いが出来ている。
下手にイリーナが出て行っては話が余計にややこしくなってしまうだろう。
――それにしても……。
しばらく文通のやり取りしかしていない内に王子は随分と成長されたらしく、何となく「オーラ」が違う様に感じた。
「……」
そして、言いがかりをつけられていた令嬢はどことなく申し訳なさそうな様子でキュリオス王子の方を見ている。
――それはそうでしょうね。
いくら招待された側とはいえ、相手は王族だ。そんな人の手を煩わせるのはどうしても気が引けるだろう。
「招待状の確認は王宮に入る前に既に終わっているはずだよ? それなのになぜ再度確認をする必要があるのかな?」
「そ、それは……」
キュリオス王子に言い寄られて使用人の男性はうろたえる様にその令嬢をチラッと見る。
どうやら、この使用人には「アリアのドレス姿がどうにも王宮主催のお茶会に参加するには相応しくない」と言いたいらしい。
――まぁ、気持ちは分からなくもないけど……。
見た感じ、確かにその令嬢はこのお茶会にはあまり相応しくない恰好ではあった。しかし、彼女の事情を考えると……それも些か仕方ない様にも思える。
――きっとお兄様につきっきりなんでしょうね。
それにはイリーナも家では似た様な状況なので少し令嬢に同情した。
しかし、それだけでなく目の前にいるメイドの女性の方もも一緒にチラチラと見ているところを見る限り「両親が不参加」という事もこの使用人の不信感に繋がっている様だ。
――全く。表面上の情報しか信じないのね。
そう思っているイリーナもあくまで周りの話を聞いただけに過ぎないが、この令嬢もきっとこんな事になるなんて夢にも思わなかったのではないだろうか。
――事情は本人や家族に聞けばいいだけなのに。
しかも、それをキュリオス王子ではなく、使用人が許可なく勝手に判断しようとしているのがそもそもの間違いである。
――キュリオス王子がまだ子供だからって思っているからでしょうね。
しかし、そのキュリオス王子に問い詰められているのだから……正直かなり愉快な状態ではあるのだけど。
「……服装? 親が参加していない事? それだけじゃないよね?」
「そ、それは……」
「まぁ、どちらにしても招待状の確認を終えてここにいるという時点で彼女は我々が招いた客人である事には変わりないし、それを個人のものさしで勝手に判断すべきではない。ましてやこんな……相当な無礼を働いた事は見れば分かるよ」
「……」
「王族の……僕が招いた客人に無礼を働いたんだ。それ相応の罰を受けてもらうから、そのつもりでね」
「そっ、そんな!」
サラリと言った王子の言葉に令嬢はは思わずギョッとしている。
それはまるでまさか「処分」されるとまでは思ってもいなかった……と言っているかの様だ。
――まぁ、ここでお咎めなしなんてならないでしょうね。
イリーナはおおむねキュリオス王子の判断に賛同していたが……。
「なっ、何もそこまでしなくても……」
その令嬢が小さくそう言っているのが聞こえた。
ただ、その令嬢はすぐに自分の発言に気が付きハッと口を押さえた頃にはもう遅く、その言葉は既に声となって出てしまっていたのだけれど……。
「ほら! サッサと歩け!」
しかし、王宮の騎士たちに使用人が連れて行かれる時に「離せ! 離せー!!」と使用人がかなり暴れた為、その叫び声で令嬢の声は近くにいた数人しか聞こえていなかった様だ。
「……さてと。随分と騒がしくなっちゃったけど、早速始めようか」
キュリオス王子がそう言ってみんなに笑顔を向けると、全員どこかホッとした表情を見せた。
「……」
多分、影でこの令嬢を笑ってさっきの使用人の様に処罰されると思ってドキッとしていた人たちがいたに違いない。
しかし、キュリオス王子はそんな人たちに気づかないフリをした。
「あの……」
そして、その令嬢に「もう大丈夫だよ」と笑顔を向け、キュリオス王子は令嬢が付けていたネックレスを一瞥してコソッと声をかけた。




