第1話
いつなんて分からない。ただ……彼に惹かれた。
確かに一度は話しているから「見た目が……」と言える事もあるだろう。しかし、イリーナが彼に惹かれたのは確実に文通をする様になってからだ。
「……」
――もし、このお茶会が仮に殿下の婚約者を決めるのに一役買っているのだとしたら……。
多少強引にでも自分が婚約者になれるのではないか……と思った。それくらいにはその頃イリーナはキュリオス王子を想っていた。
――殿下は……驚くかも知れないわね。
まさか、イリーナにここまで想われているとは……と。
でも、イリーナにとってキュリオス王子との他愛もない手紙のやり取りは彼女にとって癒しであり、心の拠り所となっていた。
――でももし……もし、彼が心のそこから想う人が現れたら……身を引こう。
やっぱり傷つくのは嫌だ。もちろん、そんな場面を見て冷静でいれるとは思えない。
――だったら最初から……と思うでしょうね。
でも、少しでも可能性があるのなら……。もし、誰でも良いのなら……そう思ってしまうのだ。
ただ、そうなれば婚約破棄になるだろう。しかし、それがキュリオス王子一人の独断で決められるものではない事くらい、イリーナも分かっている。
――私の事はどうでもいい。それより、もしそうなったら……うん。とことん嫌われる様にしよう。幸か不幸か私は『悪役令嬢』に噂されているし。
その時はその悪名を存分に発揮させてもらう。
「……フフ」
分かっている。これらはあくまでイリーナの想像で妄想だ。
――それなのに……。
「やけに鮮明ね」
それはまるで将来の自分を暗示しているかの様にも思う。でも、今はそうなる可能性が高いと不思議な自信があった。
「もしそうなったら……」
――きっと私は破滅するでしょうね。
ただ残念なのはきっと両親は「自分たちは何も知らない」と白を切ると事が既に分かっている事だ。
――あの子。ルイスには……悪い事をする……いや、悪くもないか。
この時既にルイスは義理の姉であるはずのイリーナを下に見ていた。きっと両親の態度を見て影響されたのだろう。
良くも悪くも真っ新だったわけだ。
――どうせなら……道連れにして……今から準備しましょうか。いえ、その時が来たらにしましょうか。今は気分が良いし。
なんて思いつつチラッとお茶会の招待状を見る。
そこに「はイリーナの身を招待したい」といった内容が書かれており、王族の印が押されていた。
――これを読んだ両親の顔といったら……。
王室から届いた招待状を捨てる訳にもいかず、表情がみるみる変わっていったのを今でも思い出すだけで笑いたくなる。
――殿下も人が悪いわね。まぁ、殿下の婚約者探しも兼ねているのなら……。
イリーナはそう思ったが、国中の同年代の貴族を集めるのだから異性だけではないのだろう。だからルイスを呼んでもおかしくはない話ではある。
「フフ」
――いけないいけない。顔に出ていたわ。
その時、イリーナの脳裏には「素晴らしい貴族はどんな時でも表情を表に出してはいけない」という家庭教師の言葉が過り、気を引き締めた。
誰がどこで見ているのか分からない……それが貴族界では常識だった。
「失礼します。お嬢様、そろそろ準備を――」
「ええ、分かったわ」
ちょうどその頃。部屋のドアのノックと共に現れたフィーユにそう答え、色々な感情を抱きつつ、お茶会に行く準備を始めたのだった。




