表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/14

茶葉宇宙論(前編)

 アキラはちらりと時計を見て、

「博士、そろそろお茶にしましょうか?」と声をかけた。

「そうだね。今日は紅茶を頼めるかい?」


 博士のいう紅茶は、たいていアールグレイかレディグレイだ。

 ダージリンは「飲むと頭が痛くなる」らしく、不評らしい。


「どちらにします?」

「今日はレディグレイをいただこうかね。」


 この研究室では紅茶をビーカーで煎れる。

「研究所らしいじゃないか。」とは博士の弁。

 お茶以外にビーカーを使うこともないので、“らしい”というのが意味不明なのだけれど。


 ビーカーの水が沸騰するのを待ち、アルコールランプの火を遠ざけて、時折泡立つ程度に調整する。

 そこへ茶葉を投入。茶葉がお湯の中でゆっくりと開き始めるのを見計らって火を止め、勢いよくかき混ぜた。


 勢いよく撹拌するとエグ味が出る、という人もいるが、僕はこちらの方がおいしく感じる。


 渦を巻いていたお湯が、やがてゆっくりと落ち着いていく。

 茶葉が中心付近で静かに回り続け、やがてその動きも止まる。

 琥珀色に染まったビーカーから、柑橘類の香りがふわりと立ち上る。



「うん。今日の紅茶もいい香りだね。」

 博士は一口すすると、アキラに目を向けて言った。

「ありがとうございます。」


 博士はストレート派だが、アキラは少量の砂糖を入れる派だ。

 スプーン1/3ほどの砂糖を入れて、静かにかき混ぜる。

 カップの中では、茶漉しで濾しきれなかった微細な茶葉が、紅茶の中心で静かに回っていた。


「博士、不思議ですよね。」

 アキラは、紅茶の表面を見ながら話しかけた。


「ん? 何がだい? ……ああ、茶葉のパラドックスのことかな。アインシュタインも疑問に思ったという、あの話だね。」

「え? パラドックス? あ、いや、こうして上からのぞき込むと、茶葉の粉が銀河のように見えるなと思って。」


「ほう。少年は理科系だと思っていたが、案外文系の才能もありそうだね。有望有望。」

 博士は微笑みながら言った。


 アキラが少し首をかしげるのを見て、博士は続ける。


「科学者にはね、ロマンがないと大きな発見や発明はできないものさ。少年はその点、才能がある“かも”しれない。」

「えー、“かも”ですか。そこは“ある”って言ってほしいなぁ。」

「あはは。“かも”だよ、“かも”。科学者より、喫茶店のマスターの方が向いてる“かも”しれないしね。」



 一通りお茶を楽しんだあと、博士はふと真顔になって言った。

「しかし、茶葉の回転で銀河を連想するとは、少年はいい感性をしているな。

 アインシュタインなんて、“遠心力で外側に行きそうなのに、なぜ中心に集まるのか?”って、その程度の発想しかなかったんだよ。」

 さらに博士は続ける。

「それにね、茶葉の回転と渦巻銀河の類似性はとても興味深い。深掘りすれば、面白い発見があるかもしれない。」



 アキラは帰宅後、茶葉のパラドックスと、渦巻銀河に関する未解明現象について調べ始めた。

 ──その夜、また夢を見た。


ブックマーク、評価を入れていただけると、作者は泣いて喜びます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ