032:やっぱりカレンのせいやないかーい!
残念ながら求めていた書籍は置いてなかった。
ネットでお薦めされている書籍って大体本屋に置いてないよな。この現象に名前を付けたいね。けっこう地元では大きめの店舗だから置いてあると思ったけど、ダメだったよ。ガックシだ。
まあ、お薦めされてるからこそ売り切れてるのかもしれんな。
「仕方ない、電子書籍で買うか」
店員さんにお願いして取り寄せてもらうこともできるんだろうけど。こう、できる限り店員さんとの関わり合いを減らしたい精神でいっぱいだった。こういうのをホントのコミュ障と言うのである。
精神力14よ、しっかり働いて欲しい場面だぞ。
「ボクが作ってあげようか?」
カレンがスッと手のひらを俺に差し出した。何かを生み出しそうな気配を感じ取る。自転車の時と同様だ。俺は慌ててカレンを制止した。
「ま、待て待て。ストップ、お待ちくださいませ! お客様」
「どうして? 欲しいんじゃないの?」
コテンと首を傾げるカレンは可愛い、じゃなくってだな。
「存在しない書籍をレジに持っていくわけにも行かないし、ここで鞄に入れたら万引きと勘違いされちゃうかもしれないだろ?」
「んー、バレないようにはできるけどね。じゃあ、アパートに帰ったら作ってあげようか?」
なんか押しが強いな。どうしたんだろう。
「必要ないよ。ちゃんと電子書籍で買うから」
「どうして? 必要な情報は手に入れられるよね。買うのもボクが作るのも同じことだと思うけど」
「いやいやいや、著者にお金が入らないだろ?」
「それってシズクが困ることなの?」
「巡り巡って困るだろ。その人がちゃんと収入を得て生活できるから、こうして自分の知識や考えを本にして出版してるわけだしな」
まあ、高級ソファや電動自転車が良くて本だけダメってのもアレだけどな。ここら辺の線引きってどうなってんだろうな、俺の中で。前者はカレンが使うから、後者は俺だけが使うからって感じだろうか。
カレンが人間の経済や営みに合わせる必要はないけど、俺としては最低限度の良識を守りたいとかそんなんかね? 自分のことながらよくわからないな。
「……ふーん、じゃあ止めとくね」
「ああ、そうして……あ、いや待てよ。やっぱり貰っておこうかな。カレンがそれを望むのなら好きにすればいいよ。別にカレンのやりたい事を止めるつもりはないからさ」
俺の事情とカレンの事情は切り離して考えるべきだろうな。
俺は俺で好きにするし、カレンもカレンで好きにすればいいと思う。仮にカレンが書籍を複製しても、俺は気にせず電子書籍を買えばいいだけの話だ。カレンが俺のためにしてくれることを無碍にするのはなんか嫌だ。
「そっか、じゃあ後でプレゼントしてあげるね!」
「ああ、ありがとな。後で読ませてもらうよ」
その後もカレンと一緒に店内をぶらぶらと見て回った。
カレンが興味を持ったのは、意外と可愛い系のものだった。裁縫や編み物といった手芸系、ぬいぐるみや人形の作り方に強く関心を示していた。人形に関してはロボットとかアンドロイドやヒューマノイド系にだけどな。
「興味あるのか?」
「え!? あー、うん。ホンのちょっぴりね」
カレンが眺めていた雑誌を4冊ほど手に取った。
「それ、どうするの?」
「買う。さっきのお礼にな」
「でも、ボク自分で……」
「それでもカレンに買ってあげたいんだよ。迷惑か? カレンがいらないなら買わないけど」
そう言って元の場所に戻そうとすると。
「ううん! いる。欲しい!」
「なら良かった」
「ありがと、シズク。とっても嬉しいよっ!」
どういたしまして。
照れ臭いので足早に次の目的地へ向かった。
漫画とラノベを買うことにする。もう自己啓発本も勉強効率向上本も読み飽きた。ダンジョン攻略の参考になりそうな、言わばダンジョン系を題材としたエンタメ本を買うことに決めた。
現代ダンジョン侵食系、現代ファンタジー化、異世界転移無双、転生成り上がり、ダンジョンマスター、ダンジョン経営、ダンジョン食レポ考察系、ダンジョン冒険活劇、エッチなダンジョン攻略と数え切れないほど多種に渡っている。
主人公が苦戦するリアル派路線の作品も好きだが、取得した能力を上手に使い熟して好き勝手に無双する作品も嫌いじゃない。ダンジョンを考察する物語も好きだ。発想の豊かさに感嘆してしまうね。
俺もダンジョンに携わる者として見習いたい所存だ。
「人間は知識や発想を共有できるのが強みだよね」
レジでの会計中にカレンが話を振ってきた。
「ボク達ダンジョンは自意識過剰で、縄張り意識も強いから他のダンジョンと知識を共有することなんて殆どないよ。捕食して初めて、ああ、その発想も面白いねって感心するの。捕食した相手はもういないから、称賛してあげられないんだけどね」
何だか、少し寂しげな声色だった。
「共闘とか、共同運営みたいなことはしないのか?」
「それこそ、その発想はなかったよ。ボク達ダンジョンは生まれながらにして敵同士みたいなものだからね。なんてったって利用する人間や動植物には限りがあるからさ」
あー、シェアの奪い合いか。
人間が天然資源や領土を奪い合うようなものか。
釣り銭をもらって本屋を後にしても話は続いた。大量に買った本や雑誌も重いが、カレンの話もかなり重たくなりそうだ。駐輪場で、自転車には乗らずにカレンの言葉を待った。
「とは言ってもそれは大分昔の話なんだけどね。最近だと人間が増えすぎて野良ダンジョン程度じゃ需要を満たせないくらいだよ」
おっ、雰囲気が変わったな。
「ダンジョン大繁殖時代ってとこか?」
「そうだね。それはもう凄まじいほどのダンジョンが生まれたよ。まあ、全部ボクが捕食しちゃったけどね」
変わってなかったよ、雰囲気とは一体なんだったのか。
「食いしん坊なんだな、カレンは」
「うん、知りたかったから。ボク、知りたがりなんだよ。だから世界丸ごと捕食しちゃったんだ」
世界を丸ごと食べちゃったのか。
「うん、でもそのおかげで他のダンジョンや人間、いろんな生命体のことを知ることができたよ」
カレンは何を知ったんだろうな。
「愛だよ。ボクは愛することを学んだんだ。でも世界にはボク以外は誰も存在していないけどね。取り込んだ野良のダンジョンや生命の魂は既にボクの一部のようなものだし」
愛か。
「そう、愛だよ。だから探したんだ。ボクが、ボクだけが愛すべき存在をね。それはもう血眼になって探したよ。それこそ、世界の次元を越えてでもね」
宇宙の壁を越えて、宇宙の片隅に漂う銀河系を見つけ、さらに小さな惑星に暮らす人間にまで目を凝らしたわけだ。
「それで見つけたのが」
「そう、シズクだよ」
正直な話、なんで俺なんだろうと思わざるを得ない。俺と地球人類に差なんてあるのか? 俺よりも優秀な人間はいる。俺よりも価値のある人間はいる。俺よりも……。
うん、さっぱりわからないな。
「大丈夫だよ、そんなのボクにだってわからないんだから」
「カレンもわからないんかーい!」
思わず渾身のツッコミを入れてしまった。
「だってシズクを見つけた瞬間、ボクのコアにビビッと来たんだもん。ボクの鼓動に合わせてつい大量の魔力が溢れ出ちゃってさ。あっさり次元を突き破ってシズクに振りかかちゃった。てへ」
てへ、じゃないんだが。
「その魔力による影響って何かあるのか? 例えば今起きている」
「あ、それはボクのせいじゃないよ? 魔力による影響があったのはシズクだけだからね。大丈夫、安心してね」
安心できる要素あったか?
「だいじょぶだいじょぶ、ちゃんとすぐに対処したから。シズクとボクを直通で繋いだだけだから。シズクの肉体や魂が変質するようなことは起こってないよ」
直通か。脳内会話や、いまカレンがここにいるのもそのおかげなのかな。つまり逆もありえるのか。
「それって俺がすぐにでもカレンのコアに行けるってことか?」
「実はそうなんだよね。ダンジョンを通れば辿り着けるっていうのはいわゆる一般的な話でシズクは顔パスみたいな感じかな」
「でも俺が異世界の環境に耐えられないって話は本当なんだろ?」
「そうそう、いまボクのコアに来てもシズク瞬殺だからね」
瞬殺っすか。
「一瞬にしてシズクの魂と肉体がボクに吸収されちゃうよ。しかも無意識的にね。それはそれで甘美な響きだけど。でもボクはシズクを愛してるから絶対に捕食はしないよ」
捕食されて一つになるってどんな感じなのか気にならなくはないが、同じ合体ならエッチな方が良いな。
「つまり、兎にも角にもダンジョンを利用して俺がカレンの環境に耐えられるくらい成長すればいいってことだよな。そう気難しく、ダンジョンを踏破することにこだわる必要はないと、そういうことだな?」
「そゆことー。気軽にのんびりとダンジョン攻略を楽しんでね。あ、でもシズクがボクの中で暴れまくると、ボクすっごく気持ち良いから、いっぱい攻略して欲しいな?」
「暴れまくってやりましょうとも!」
でだ。本題に入ろう。
「魔力で突き破って空いた次元の穴はどうなったんだ?」
「うぐっ。えへへ」
えへへ、じゃないが。
「突き破った穴から多次元世界の魔力が流入して地球にいっぱい流れ込んでいるね。うん、ダンジョンの発生はやっぱりボクのせいみたいなものだね」
「やっぱりカレンのせいやないかーい!」
駐輪場に俺の叫びがこだました。
それにしても本屋の前でする話じゃないな、これ。




