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033:共依存ってヤツだな


 つい叫び声に近いツッコミを入れてしまった。


 だが、それほど俺の行動が目立っている様子はなかった。なぜなら、それ以上のざわめきが周囲で起こり始めていたからだ。もしくはカレンが目立たないように何かをしてくれているのかもしれないが。


「なんだかゴツい車両が増えてないか?」


 車道を眺めると、やたらと大型車両の数が多い。あと、見た目がゴツゴツしている。さらには、それらを見に来た野次馬で歩道がしっちゃかめっちゃかだ。それに対処するお巡りさんの数も段々と増えているようだ。


「機動隊の車両だね。指揮車と大型輸送車かな。あと自衛隊の災害派遣用の車とか軽装甲車が路地の奥の方に隠されてるね」


 ほへー、初めて見たよ。


 けっこうド派手なカラーバリエーションしてるんだな。自衛隊も来てるのか。人命救助とか危険物の処理とかを名目に来てるのかな。いや、軍事関係は詳しくないから出動要因とかホントよくわかんないんだけどさ。


「あと政府関係者の車もチラホラある感じだね。現場視察とかかな。非武装でダンジョンの近くにまで足を運ぶなんて、なかなか勇気あるよね」

「なんかいきなりの大集合って感じだな。何かあったのか?」


 俺とカレンが本屋で一時間くらい見て回っている間に、外ではわちゃわちゃと事態が動いていたらしい。避難誘導とか隔離封鎖なんかはされてないから、それほど大事にはしていないようだけど。もしくはこれからされるのかもしれんな。


 そういえば出掛ける前にカレンがダンジョンに少し手を加えるとかなんとか言ってた気がする。もしかして、それ関係か?


「鋭いね、シズク。お詫びも兼ねてこの世界の人間がダンジョンと上手に付き合えるようにマニュアルみたいな物を用意してあげたんだよ。堂々とダンジョンに入ってすぐの入り口付近にね。


 この中野町ダンジョンの基本的な仕様とドロップ品、これから増えていく野良ダンジョンの種類とか習性、基本的な仕様と簡単な対処法なんかを適当にまとめて本にしてみたんだ。どう? ボクって良いダンジョンでしょ?」


「グッジョブだ。中々良い仕事をしてくれたな、カレン」

「えへへ、どういたしまして!」


 ビギナーダンジョンに俺を裸一貫で放り込む前に、そういったものを用意してくれていたら、なお良かったんだけどな! 心構えやら身構えやらがそれで出来ただろうに。


「それはそれ、これはこれだね」


 便利な言葉だよな、それ。


「ふーん、けっこう探索能力が高いね。70%は踏破されてる感じかな」


 ほえー、踏破率高いな。やっぱり集団の力って凄いんだなぁ。


 俺が感心している隣りでカレンが遠くを見つめるように目を凝らしていた。カレンの瞳には今も探索に勤しむ警察官や自衛隊員の姿が映っているのだろうか。それにしても隷属化させたダンジョンの様子を当然のように掌握できているんだな。


 俺も少し見てみたいな。


「シズクも見たいの?」

「え、見れるのか?」

「ボクが見ているものを直接シズクに流し込むと、負荷が掛かりすぎて脳みそが大変なことになっちゃうけどね。シズク、ちょっと<マッピング>を開いてもらってもいい?」


 カレンの指示通りに<マッピング>を意識した。


 脳内ではなく、視覚的に表示してみる。自転車のハンドル付近にここら一帯の地図がホワンと浮かびあがった。なんか、未来の自転車みたいでなかなかイカスな。よそ見運転で事故りそうだけどな。


 地図にはダンジョンの入口と思われる場所がピコンとアイコンで示されていた。その周辺に大型車両や警察車両が駐車されていることや、かなりの人員が配置されていることも表示記号でわかった。


 カレンがその画面に軽く手をかざすと、表示されていたものが一変した。


「おわっ、凄いな。めっちゃヌルヌル動いてる。多分だけど、この青い丸の群れが警察隊で、こっちの黄色のは自衛隊のチームか。この白い丸はなんだろうな、みんなに囲まれながら動いてるけど」


 人数的な割合から推測してみた。


 警察隊は団体で、自衛隊はチーム単位で動いてる感じだろうか。未知のダンジョンに挑むにしてはかなりの人数が投入されている気がする。カレンのマニュアルが功を成しているのかな。


 マップのタイトルは中野町一般向けダンジョンと記されていた。


「それで合ってるよ。このポツポツ全体に散らばってる赤い点が敵性体だよ。白い丸は保護対象者だね。非武装の迷宮観測班ってところかな」


 青い丸の群れが赤い丸と接触したそばから、一瞬で赤い丸が消失していく。どうやら警察隊が積極的に魔物を間引きしているようだ。そして、数の少なくなった赤い丸を黄色い丸が取り囲んでいる間に、白い丸が恐る恐ると近づいていった。


 赤い丸の周りを白い丸が慌ただしくウロウロと動きまくっていて、興奮している様子が何となく伝わってくる。きっとカメラをパシャパシャしたり、録画したりで忙しいんだろうな。


 マップ上で色の付いた丸がただ動いているだけで、何が起きているのかを大体想像できた。結構面白いな、これ。


「最初の探索者がダンジョンに入ってからどれくらい経ってるんだ?」

「4時間くらいかな。朝イチから人員を交代させながら探索領域を拡大してるね。ちなみに現時点だとダンジョンの領域は中野町を中心として円状に半径5kmくらいにまで広がってるよ。もっと正確に言うと円錐型で地下方向にも深まってる感じかな」


 俺なんて二週間以上かかって、マップを半分しか埋めてないにな。いやはや、大したもんだよ。


「あまり凝った作りにはさせてないからね。踏破するだけなら簡単だよ。それに難易度はビギナーダンジョンの方が高いし、出現する敵性タイプも雑魚だし。単純な比較はできないからね。あんまり落ち込んじゃダメだよ?」


「ああ、いや、全然落ち込んでないから大丈夫だ。単純に組織力って凄いなって感心しただけだよ」

「それならいいんだけど」


 メンタル雑魚だからカレンに心配されてばっかだな。もうちょっとくらいは心が強くなっても良いんじゃないか? 俺の精神力さんよ。

 

「それにしても破竹の勢いだな。そういえば踏破されたらダンジョンはどうなるんだ?」


 青い群れと黄色の団体がうねるように迷宮を駆けていく。このペースだとあっさりとダンジョンを探索し尽くしてしまうんじゃないのだろうか。


 もし消滅してしまうとしたら、ダンジョンが踏破されるとそれはそれで困ったことになるな。


「とりあえず縄張りを広げるために、異空間を拡張させ続けているからね。早々にコアまで辿り着かれるようなことにはならないよ。奥に進むにつれて敵性体の強さを変えたり、編成数を変えたりしているし、大分ペースは落ちていくんじゃないかな。


 ついでに異空間を多重層化してコアを隔離させてるからちょっとやそっとじゃあ辿り着けないと思うよ」


 どうやらカレンは現在進行系で隷属化させたダンジョンに教育的指導を施している最中のようだ。


 でも人類さんには現代兵器無双がまだ残ってるしな。本格的に重火器が投入されたら攻略されるのもあっという間な気がする。もちろんカレンが設定する難易度によりけりなんだと思うけどさ。


「人間にとってかなり旨味があるように調整してるからね。仮にコアまで辿り着いてもダンジョンを消滅させるようなことは流石にしないんじゃないかな」


 それはどうなんだろう。


 この世界の人間にとってはまだダンジョンは未知数なわけだし、旨味があろうが得があろうが、とりあえず消滅させてみる方針を取るんじゃないか? ダンジョンの危険性を重視すると思う。カレンが提供したマニュアルの信憑性もわかっていない段階だしな。


「甘いなぁ、シズクは。ボクが用意したのは特大の利得だからね。警官隊が積極的に敵性体を狩っているのは何も露払いのためだけじゃないんだよ。ちゃんと国にとって必要な資源をドロップさせているからね。だから、わざわざ国の重鎮さんが足を運んでまでそれを確認しているんだと思うよ」


 カレンさんは人間が欲しい物をよくわかってらっしゃるな。


「そのことも含めてマニュアル本を用意したのか?」


「そうそう、このままダンジョンが世界中に増えていくのは止められないからね。だったらお互いに上手く共生できるように意識を調整した方が双方にとっても都合が良いでしょ? ボクも学習したからね。ダンジョンと人間が連携すれば良い感じの未来が作れるんじゃないかな」


 起こってしまったものは仕方がないものな。カレンにも野良ダンジョンの発生は止められないみたいだし。未来志向な方針は嫌いではない。


 結局のところ、カレンのような超越者がこの世にたった一人だけしかいない、ということもないんだろうしな。多次元宇宙やら多次元世界やらが存在するというのなら、いずれにせよ地球はこういった事態に巻き込まれていた可能性が高いはずだ。


 ある意味だけど。


 この状況は人類にとって不幸中の幸い、怪我の功名と言えなくもないんじゃなかろうか。


「どう考えてもカレン贔屓な考え方だな、これは」

「別にボクのことを非難してくれても構わないけどね」

「どうなんだろ、今の俺にはもうできないんじゃないか? 出会った当初ならともかくだけどな」


 今の俺は、あまりにもカレンに依存しすぎている。そこら辺はちゃんと自覚していた。もうカレン無しで生きる人生なんて欠片も想像できないね。


「ボクもボクも。シズクを見つける前のボク自身を思い返せないくらいだよ。今のボクにはシズクが絶対に必要だからね」


 共依存ってヤツだな。


 それともこれが共生するという考え方なのだろうか。


 何れにせよだ。お願いだから、突然俺の前からいなくならないでくれよ? 絶対にとち狂う自信があるからな。まあ、どちらかと言えば、俺の身に何かが起こる可能性の方が高いかもしれないけどな。


「大丈夫、そんなことはありえないよ。ボクとシズクの幸せを邪魔する奴がいたら、その存在ごとボクが消滅させてあげるからね。だからそんな心配は無用だよ?」


 ヤンデレかな?


 なんだか問題なさそうなので、俺とカレンはアパートに戻ることにした。ここにずっと留まっていても仕方がないものな。


 途中で、パン屋に寄って惣菜パンを大量に購入する。カレンがあれも食べたい、これも食べてみたいとねだるので、ついつい財布の紐が緩んでしまった。


 爺ちゃんの小遣いがなければ即死だった。


 ATMでお金を下ろしておかないとな。行ったことはないけどキャバ嬢やホステスにお金を貢ぎたくなる気持ちが何となくわかった気がする。高額スパチャをぶん投げる気持ちはたぶんわからんけどな。





 アパートの一室に戻っても夏の暑さを満喫することなく、カレンの空調魔法で快適な時間を過ごしていた。


 別に冷房を入れても良かったのだが、カレンにも都合があるらしい。肉体を介した魔法行使を練習中とのことだった。とりあえず、ここら一帯を爆裂魔法で吹き飛ばさなければ好きにしてもらってかまわないと告げておいた。


 朝食の時も思ったが、誰かと一緒に食べるとご飯が美味いな。いや、カレンと一緒だからより美味しいのかもな。


 昼食を終えたら、二人して読書に勤しんだ。


 カレンは俺が買ってあげた手芸の雑誌を、俺はカレンに複製して貰った自動運転関連の書籍を手にしてソファに仲良く二人並んで読みふけった。ちゃんと電子書籍版を購入するのも忘れない。


 まあ、カレンに貰った複製本の方を読むけどな。


 レポートで使えそうな部分をメモに取りながら、要点をノートパソコンにまとめていく。カレンはいつの間にか創造したかぎ針と毛糸を手にしてあみぐるみに挑戦していた。


 モデルはネズミモドキだ。何でやねん。


 しばらく、アパートの一室に静かで穏やかな時間が続いた。


ビギナーダンジョン編 完

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