030:はぁ? マジっすか!
* * * * * * ス テ ー タ ス * * * * * *
名前:中ノ森シズク 性別:男 年齢:19
成長率:大器晩成 才能:非凡 称号:ビギナー探索者
パラメータ(アスリート:10 達人:15 超人:20)
生命力= 13(12:探索前)
耐久力= 11
筋 力= 12(10)
器用さ= 11(10)
敏捷性= 10
知 力= 10
精神力= 14(13)
幸 運= 30
欲望度= 50
カルマ= 100:善良
スキル:<耐える> <突進・相棒突き> <ステップ>
<休息術>new <平常心>new <激発>
<棒術>new <投擲術>new <マッピング>
探索回数:25 獲得経験値:777
* * * * * * ス テ ー タ ス * * * * * *
カレンの裸を見たり、抱きしめたり、悪魔っ娘リーゼが登場したり、地球を見たり、宙に浮かんだりと盛り沢山なことが起きたわけだが、ソファに座ってカレンとお茶を飲みながらお喋りをしたおかげでようやく俺の気持ちが落ち着いてきた。
実はまだ悪魔っ娘リーゼの登場に心と下半身がめっちゃ揺さぶられていることは一先ず脇に置くとして、先送りしていた迷宮の探索結果を振り返ることに決めた。
二人がけのふわふわソファに座って、ステータスとノートパソコンの画面に向き合う。カレンが隣りで俺の打ち込み作業を興味深そうに覗いていた。
自分のステータスをカタカタとキーボードで打ち込んでいく。今回の迷宮探索も非常に得るものが多い結果となった。パラメータの成長に関してもそうだが、新たに4つのスキルを獲得している。
とは言ってもあまり驚きはなかった。
<棒術>や<投擲術>なんかは迷宮内で必死に練習したので、やっぱりゲットしていたなという納得感の方が強い。<休息術>や<平常心>に関しても体感的に把握していた感じだ。
カレンからスキルの詳細を聞いて、スキル関連のページにまとめていく。まとめながら思ったことは一つ。どのスキルもパラメータの数値が強く影響しているということだ。このことから、ステ振りはやはり均一的に上げた方が良さそうだなと判断する。
能力値に関しても同様にまとめていった。
生命力や筋力が向上しているのも、あれだけ重たい荷物を背負って迷宮を探索していればそりゃ上がるよなと頷いてしまう。物干し竿くんを数時間にわたって放り投げ続けたことも影響していると思う。
器用さについても同様だ。<棒術>や<投擲術>の練習を重ねていくうちに、物干し竿くんの扱い方がどんどん上手くなっていった自覚があった。
今回は迷宮内で混乱に陥ることもなかったし、突発的な事態にも冷静に対応できた。精神力の上昇に関しても納得がいく。
……なんというか、酷く落ち着いているな。今までステータスの数値やスキルに一喜一憂していたのが嘘みたいだ。
それにしても筋力の数値だけ2ポイントも上がってるな。
カレンにぶつけないように右腕を少し上げて力こぶを作ってみた。
「見た目的にはあんまりムキムキになってないな。普通の細腕って感じだ。でも凄く力が出せそうな気がする」
「いい感じに中身が引き締まってるでしょ? 筋肉繊維の一本一本が強化されてるようなイメージで良いんじゃないかな。見た目に拘りたければ、意識的に筋トレするのがオススメだよ」
別にマッチョな体型には憧れていないのでこのままでいいかな。
残りの能力値、自力で成長していないパラメータは耐久力、敏捷性、それと知力か。
耐久力が上昇していないのはなんとなくわかる。今回は一切ダメージを受けてないからな。敏捷性に関しても、物干し竿くんをゲットしたことで俊敏さを活かさずにドッシリ構えた戦法を取ったから上がらなかったことにも納得がいく。
知力に関しては……。
「確か、能力値によって上昇させるのに必要な経験値量が変わるって話があったよな」
「そうだね、成長しやすい能力値は確かにあるよ。筋力は人類に共通して比較的成長しやすい能力値だね。もちろん、個人差はあるけどね。シズクの場合は生命力や精神力が上昇しやすい傾向にあるかな」
なるほど、自分の得意能力値と苦手な能力値を知るのは重要だな。
つまり、得意な能力値はダンジョンを攻略しながら自力で成長できるように心掛ければいい。そして苦手な能力値をカレンの経験値割り振りシステムで補えばバランス良く効率的に成長できるはずだ。
苦手な能力値とは即ち。
「……知力か。でも知力を上げるイメージって全然湧かないな。勉強して知識を増やせば知力が上がるってわけでもないだろうし。知恵や閃き、柔軟な思考力や演算能力、高度な情報認識能力や情報処理能力は訓練すれば習得できるものなのか?」
子どもの頃の知育で何かが変わるのだろうか。大人になってから訓練しても何かが変わるのだろうか。ただ単に学習をサボっただけなのだろうか。それとも努力が足りないだけなのだろうか。
……俺にはわからないね。
「うーん。まあ、何はなくとも知識は必要だよね。元となるものがなくちゃ、いくら頭の回転が早かったり、情報処理能力があったりしても宝の持ち腐れになっちゃうもんね。シズクもそう思うでしょ?」
そうかもしれないけどさ。
でも頭の回転が良い奴や情報処理能力が優れている人はそれを活かして知識を効率的に収集できるよな。結局は能力ありきの話になるんじゃないのか?
「そうだね。それは否定しないよ。でもね、シズク。結局のところ、キミたち人間は自分に与えられた能力値に従って生きていくしか術がないんだよ。それが地球という惑星に暮らすキミたちに課せられた定めってことだね。
ふふっ、でも安心してね? ボクがその定めをぶち壊してあげる。雁字搦めになったシズクの人生をボクが解いて、導いてあげる。そのためにボクはここにいるんだから」
いつの間にか、カレンの瞳を見つめていた。カレンの自信たっぷりなその眼差しに、俺はほんのちょっとだけ救われた気がした。
まったく「何がステータスに関して一喜一憂しなくなった」だ。めっちゃ不安になってるじゃないか。ステータスの数値が向上したところで俺の本質はそうそう変わらないってことなのかもな。
でもまあ、ちゃんとこういった不安な気持ちも吐き出しておこう。胸の内に抱えておくよりも、その方がずっといいはずだ。
「……そうだな。よし、気を取り直してさっさと確認作業を終わらせようか」
「うんっ、その意気だよ」
カレンの励ましを受けて確認作業と打ち込み作業を継続する。
記憶が薄れないうちに、今回の迷宮探索における活動記録を付けておかないとな。単なる事実の列挙ではなく、自分が何を感じて何を考えたのかを詳細に打ち込んでいった。
迷宮の雰囲気、心の変容、身体能力についても自然と考察を交えていた。
「そういえば、迷宮内ではあまりお腹が空かなかったな。そこのところはどうなんだ? ステータスの恩恵か? それともビギナーダンジョンの仕様か?」
「あー、それね。両方ではあるかな。シズクはあまりこの話は聞きたくないと思うけど、それでも聞く? ドロップに関連してるんだけどね」
ドロップ……遺体か。なるほど、この話題はやめておこう。おそらく省略化されてるってことなんだろうな。おい、やめておけ。思考を勝手に続けるな。
「次だ。次に確認するものはっと、このいきなり表示されたヤツか」
ちなみに才能や称号に関しては深く考えないようにしている。カレンがステータスを表示する度にコロコロ変わっている項目だしな。それに非凡と評価されても実感がこれっぽっちも湧かないものな。
まあいいか。次に行こう。
「それで、この3つの項目は何なんだ? カレン」
隣に座っているカレンの方に顔を向けて疑問を投げかけた。実体化したままなのでカレンの存在を肌で感じることができる。作業中、ちょくちょくボディタッチが起きてハラハラドキドキしてばかりだ。
すぐ抱きしめたくなってしまう。
「ああ、それね。いわゆる隠しパラメータってヤツだね。ビギナーダンジョンをクリアしたら見せてあげるって前に約束したでしょ?」
「そういえば最初にステータスを確認したときにそんなことを言ってたな。なんか、つい数日前のことなのに数年前のことのように感じるな。何でだろう」
「ふふっ、さあ何でだろうね」
思えばたった数日前まで俺のステータスは軒並み5以下の数値だったんだよな。それが今ではこの数値だ。カレンの成長システムの凄さを実感するね。
「ボクはキッカケを作っただけだよ。シズクの意志と行動があってこその今だからね。それを忘れちゃだめだよ?」
「ん、わかったよ。別に自分を卑下しているわけじゃないから大丈夫だよ」
それにしても幸運と欲望度とカルマか。普通の身体的な能力値とは一線を画している項目だよな。
「カレン、一通り説明を聞いてもいいか?」
「もちろん。とは言ってもね。シズク本人にとってはあまり関係のない項目かな。言わば、ボクから見たシズクの深層評価ってところだね。次からは表示しなくても問題はないんじゃないかな」
そうは言っても幸運に、欲望度に、カルマだぞ?
「もろに関係ありそうな名前をしてるけどな」
「つまりね、シズクの意思でどうにかこうにかなる値じゃあないってことだよ。シズクの無意識領域や魂の性質なんかの話だね」
確かに。幸運に関しては俺がどうこうできる問題じゃあないよな。というか幸運って数値化できるのかよ。そっちの方が驚きだね。
「ああ、勘違いさせちゃってごめんね。これは単なるボクが設定した数値だからね。そんなに大層な代物じゃないから安心して。単なるバランス調整として用意したんだよ。ほら、迷宮内のドロップ率とかモドキとの遭遇率とかそういうのに使ってる便宜的な数値ってところかな」
なんだ、そういう数値か。ダンジョンの中で作用する数値で現実的な運命とかには関係ないってことだよな。
「現実的な運命を考慮したら、自画自賛だけどシズクはボクと出会えたことが幸運度マックスって感じだよね」
「そういうのって自分では言わないのが華だろうに。まあ、確かにカレンと出会えたことは俺にとって最高に運が良かったと思ってるよ」
「えへへ、ボクも同じ気持ちだからね? シズクと出会えてボクは最高に幸せなんだから」
こうしてハッキリ言われると何だか少し気恥ずかしいな。カレンは俺の右腕にギュッと抱きついて幸せを表現してくれた。俺もカレンと全く同じ気持ちになる。
「それで。この欲望度ってのは?」
「それはシズクの欲求や欲望を数値化したものだね。ボクがシズク以外の一般人を観察してみたところだと、大抵の人は100くらいあるかな。特に高い人で500はあったね。シズクはそういった欲望がかなり薄い方だね」
ほえー、自分の欲望の数値化か。
確かに物欲が薄いのは自覚しているな。三大欲求のうちの睡眠欲や食欲も大して強い方じゃないし。金銭欲も特にないな。自己承認欲求に関してはここに来てかなり薄まってきた気がする。おそらくだけど、ステータスが向上して余裕が生まれたおかげだろうな。
「性欲に関しては人一倍だけれどね?」
「そこはそっとしておいてくれ」
欲望が希薄か。
「やっぱり貪欲さって必要なのかな」
「さあ、人それぞれだと思うよ。じゃあ今からボク欲望全開で行くねとは普通ならないでしょ?」
「え、どうだろ。欲望全開でカレンを押し倒したい気持ちでいっぱいなんだけど」
「でもそうは口にしても実際は行動に移していないよね。シズクはどうしても理性が先に立っちゃうんだよ。本能に忠実になれないタイプだね」
言ってくれるじゃないか。よし。俺はカレンをムギュっと抱きしめた。抱きしめて……やっぱお互いの同意が必要だよな。と、そのままの姿勢で固まってしまう。
「ふふっ、ほらね?」
むぐぐ、悔しい。でもカレンの指摘通りだった。それでも最後の抵抗としてカレンを抱っこするように太ももに乗せた。カレンもノリが良く正面から抱きついてくれる。
この状態になっても俺は幸せ気分になってしまい、そこから先へは進めなかった。
「はぁ、やめやめ。次に行こう。次はカルマか」
それにしてもカルマねぇ。
ゲームなんかではよくアライメントシステムみたいなものがあるけど、こうして現実として自分の業を数値化されたものを見るってのも変な感じだな。
善悪が主人公の行動パターンを縛るタイプとか、取得する能力に影響したり、エンディングが分岐したり、そういった要素でしか見たことがない項目だ。
「これもカレンから見た俺の印象ってことでいいのか?」
「そうだよ。シズクの魂の色合いだね。ほんのりと暖かくて淡い光を放ってる。とっても愛おしいシズクの魂の色。ずっとボクの中で光を放ち続けてくれたらいいな。こんなに幸せなことはないよ」
随分と高評価だな。でもそんなことを言われると、自分の魂がドス黒くなってしまったときのことを想像してしまう。もしそうなったらカレンは……。
「それはそれで良いよね。闇落ちしたシズクのことを考えるだけでボクのコアが沸騰しちゃいそうだよ」
「趣味わるっ」
はぁ、深刻に考えて損したよ。
これに関してはカレンの言う通り深く考えてもしょうがないな。客観的に俺の善良さがわかって良しとしよう。
言うて、そんなに良い子ちゃんぶって生きてきたつもりもないんだけどな。人の悪口だって口に出してしまうことはままあるし、困ってる人に進んで手助けをしたいとも思わない。ボランティア精神なんかカケラもないしな。
「シズクは悪意が長続きしないタイプってことだね。瞬間的に相手を憎んだり悪意を抱いたりしても、コロッと忘れることができる。とっても良いことだとボクは思うよ?」
確かに、自分のこと以外は寝れば大抵忘れてしまえるな。あまり他人に興味がないのかもな。自分大好き人間なのかもしれない。
「ボクのことは?」
「好き」
「えへへ、ボクもボクも」
このままだと永遠にステータスの確認作業が終わらないな。なるほど、カレンの実体化は罠だな。ずっとここに囚われてしまいそうだ。
気持ちを切り替えて次に行こう。
「それにしても獲得経験値777か。スリーセブンで何だか縁起が良いな」
ステータスが向上したことで俺の行動限界が突破した。そのおかげで色々とできることが増え、その結果がこの獲得経験値に繋がったのだろう。
「へぇー、人間って数字に何か特別な意味を見出したりするんだね。ボクにとってはただの便利な道具に過ぎないんだけどなぁ」
カレンの言葉に思わず頷いた。
「言われてみれば確かにそうだな。数字に意味を見出すってあらためて考えると凄く不思議な気がする。数字に神聖さや吉兆、好き嫌いや良し悪しを付加する意味って何なんだろうな」
占いや名前の字画、ラッキーナンバーとかもそうか。
「それだけ数字が身近にあるってことなのかもね。ボクにとってはただの計算道具に過ぎないけれど、人間は数字に愛着を覚えることでより大事に使おうとしているんじゃないかな」
なるほど、言わば物に愛情を感じるのと同じようなことか。道具に愛着が湧けば、それだけ大事に扱うようになるものな。
もしくは逆か。数字を信じることで、それに結びついた何かを大切に扱おうとしているのかもしれない。
「宗教観とか記念日とか、歴史的な重大イベントと数字を結び付けることで、そのことを忘れないように、大事にしているのかもしれんな」
「へぇ、記念日かぁ。7月7日はなんの日でしょーか?」
「俺が人生で初めて死んだ日だな」
「……むぅ」
はいはい、ムクれるなよ。カレンと初めて出会った日ですとも。
「えっへん、それそれっ。うん、なんだかボクも数字を愛する感覚がわかってきたよ。ボクも7という数字が好きになっちゃった」
そりゃ良かった。カレンが少しでもより人間に身近な存在となってくれたら俺も、地球人類も大いに助かるな。
「って話が大分ズレたな。問題はこの経験値をどうするかだ。俺としてはこのまま保留にしておくのもありだと思ってるんだけど、カレンはどう思う?」
「シズクの好きにしたら良いんじゃないかな。って答えは望んでないんだよね? うーん、そうだなぁ。次にボクが用意するダンジョンに挑んでから考えるのも悪くはないかもね」
次のダンジョンか。それも気になるけれど。
「そういえば、ビギナーダンジョンってクリアしたけどまた挑んでも大丈夫か?」
「え? もちろん、構わないよ。でも、どうして? シズクはもう十分学ぶべきことは学んだよね?」
「それにはとっても浅い理由がある」
単純に俺がビギナーダンジョンのマップを全て埋め尽くしたいだけだった。あと、他のモドキを象った黄金スタチューもゲットしてこの部屋に飾って置きたいしな。必要性のない無駄なことをするのもまた一興ってやつだ。
俺は別に完璧主義者というわけではないけれど、コンプリート欲はあるかもしれない。ゲーム系のミッションは全部金色コンプリートしたり、拾得できるアイテムは全部集めたりしたい派だ。ちょっぴりコレクター欲も強いかもしれない。
「ふーん、なるほどなぁー。理屈に合わない無駄な行動も人間には必要かぁ。ふむふむ、なるほどねー。今後の参考にさせてもらうね」
さて、これでステータスに関することは大体終わったな。探索記録もお喋りしながら殆ど打ち込み終わったし。ビギナーダンジョンに再挑戦可能なことも聞けた。
「あとは、新しく挑むダンジョンのことだけど。カレン、いま何時くらいだっけ」
「もぅ、ノートパソコンに表示されてるでしょ? でも答えちゃう。朝の7時07分だね」
あらま、もう朝になってたか。ずっとパソコンと向き合ってたな。
「ふふっ、ボクと。でしょ?」
「確かに」
さっきからカレンを膝に抱っこしたままだ。めちゃくちゃ作業はしづらかったが、むしろやる気だけは漲ったね。
「新しいダンジョンは気になるが、今日はもう帰ろうかな」
「えぇー、もう帰っちゃうの? 今日は休みなんでしょ? ほら、このまま新しいダンジョン行っちゃう? 行っちゃおうよ。ボクと一緒に楽しいことしよっ?」
大変に魅力的なお誘いはありがたいが、帰ってシャワーを浴びたい。俺って意外ときれい好きだってことに最近気が付いたよ。ミラクルベッドで清潔になっても気分的にはそうでもないのだ。
「もぉ、次のダンジョンからはボクも一緒に探索しようと思ってたのになぁ」
はぁ? マジっすか!




