↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/34

026:いっその事投げてみるか


 北西方面のマップを埋めながら歩いていると、良い感じに休憩が取れそうな循環型の通路を見つけた。


 少し分かりにくいかもしれないが、_□_こんな具合で下側の通路が横方向に繋がっている。この地形の利点は左右のどちらからモドキが歩いてきても大抵は真っ直ぐ進んでこの四角い循環通路を通り過ぎるところだ。


 つまり下側の通路から見えないように、上側の通路で休憩することができる。もちろん、ここでは先ほどのようにお喋りに興じることはできない。頭の中で黙々と思考するのが正解だ。


 イヌ耳カチューシャのおかげで音にはかなり敏感に反応できる。わりと本気でこの場所は安心安全空間となっていた。カレンのおかげだ。実に有り難い。


「……ふぅ」


 ほんの小さくため息を付く。順調といえば順調だが、しっかり戦闘も重ねているのでそこそこの疲労は溜まっていた。父さんを見習って堂々と休むことにする。


 北側のマッピングはほぼ終わった。


 あとは北西エリアと西側で今回のマッピングは完了となる。北東の最端部分に少し空白地が残っているので、別の機会に埋めに行かないとな。<マッピング>を意識して北東最端:次の機会とメモを取る。


 現在のカウンティングはこうだ。

 イヌモドキ:9  ドロップ:3(イヌ耳1:ファング足2)

 ネコモドキ:1  ドロップ:0

 ネズミモドキ:3 ドロップ:0

 ウサギモドキ:0 ドロップ:0


 イヌモドキとネズミモドキの1:1編成と2回遭遇して撃破した形だ。


「……」


 何だか大して休憩してないのに大分疲れが取れた気がする。<休息>スキルのおかげだろうか。


 俺は座禅を組んで目を瞑った。背筋をぐっと伸ばして姿勢を整える。とても落ち着いている。精神も、肉体も緊張がない。自然体だ。肩の力を抜いて、これからの予定を考える。


 できるだけネズミモドキを倒さないように小空間と部屋に辿り着く。そこで扉の紋様を確認してからネズミモドキを狩る。恐らく落とし物もあるはずだ。あと、冷静になって考えると、物干し竿くんは物干し竿として短すぎる気がした。めっちゃどうでもいいな、これ。


 通路の幅、高さが約5mとして、物干し竿(小)君は約2mちょいだ。位置取りさえ注意すれば十分振り回せる……のか? これだと常に通路の真ん中を維持する必要があるってことだよな。


 じゃあ、振り回さない方向で考えよう。漫画で読んだことがある。


 李書文先生の槍捌きだ。子どもの頃に読んだ漫画なので詳しくは憶えていないが、棒術は主に突きがメインだった気がする。両手で棒を持つ、シュッと前に突き出す。突き出した棒先を上に跳ねたり、横に払ったり、円状に弾いたりと変幻自在な動きをしていた。


 上段突き、中段突き、下段突き、連続突き。横払い。あとは上からの叩きつけか。こんな感じだったと思う。たぶん。


 相棒を手放して、物干し竿くん(小)を使うメリットは確かにある。


 リーチが長い。間合いが広い。距離を保てれば下段にも攻撃しやすい。つまりネズミモドキにも対処がしやすくなる、と思う。試してないのでまだ何とも言えないが、りろん的にはそうなるはずなのだ。


 よし、物は試しだ。物干し竿をメインに使ってみよう。


 ただし、相棒は手放さない。邪魔にならないように持ち運ぶ必要がある。左手に相棒、右手に物干し竿ではだめだ。いちいち手放すのも拾いなおすのも怠い。


 ここはひと工夫する時間だろう。


 まず、俺はスポーツウェアの上着を脱いだ。紙防御力が薄い肌着一枚になったことでもはや裸同然である。だが、それでいい。


 俺はとにかくスポーツウェアをぐるぐるに絞り上げて行く。捻(ねじ)って捻(ひね)って縄状にしていく。そこにリストバンドを2つ通した。そして縄状のスポーツウェアをタスキ掛けにして上半身に結んだ。


 するとどうでしょう。


 腰辺りに丁度2つのリストバンドが位置しているではありませんか。俺はそのリストバンドに相棒を通した。見事に相棒が腰の辺りでぶら下がっている。想定通りに装備はできた。


 でも、邪魔だなこれw 歩く度、足に当たるんですけどw


 失敗である。


 咄嗟に相棒を使いたい想いが強すぎて腰に下げてしまったが、考え直した。位置を調整して背負うように相棒を固定した。まるで気分は忍者か、ガン○ムだ。相棒がビームサーベルだったら良かったのにな。


 だが、これで相棒を手放さずに物干し竿を扱える。休憩は終わりだ。


 いざ、ネズミモドキ退治に行かん。




 結果的に言えば、物干し竿はとても役に立った。


 始めのうちは、下段を突いてネズミモドキを狙うのは大変だったし、叩きつけを外して地面を強く打ったときは手がしびれて大変だった。この『大変だった』で済んでいるのはひとえにステータス向上の恩恵だろう。


 距離感を掴むのに苦労したが、2匹、3匹のネズミモドキと戦っている間にすっかり慣れてしまった。さらに、物干し竿の良いところはアクロバティックな軌道を描く補助道具としても使える点だ。


 例えば、2匹のネズミモドキが同時に足元へ群がって来るとき、物干し竿を支点として壁走りをしてみたり、棒高跳びの要領で飛び越えてみたりと面白い動きができるようになった。


 連撃の突きや払い、叩きつけも上手くなり、あれ俺の相棒って物干し竿だっけと勘違いしそうになるくらいだ。


 そんなこんなで、物干し竿の使い方を学びながら俺は西側の小空間にまで辿り着いた。


 現在のカウンティングはこうだ。


 イヌモドキ:9  ドロップ:3(イヌ耳1:ファング足2)

 ネコモドキ:1  ドロップ:0

 ネズミモドキ:10ドロップ:3(ネズミ耳1:玩具2)

 ウサギモドキ:0 ドロップ:0


「夢中になりすぎた。俺は悪くない。物干し竿が悪い」


 すっかり物干し竿の虜になっていた。背中の相棒が泣いているね。例によって周囲の警戒をしてから、小空間の中央へと歩み寄る。そこにあった落とし物はこれだ。


「円棒ってこれ、マジでどう使えばいいんだろう」


 俺が拾ったものは正しく○である。直径50cmくらいだ。とりあえず、考えるのは後にしよう。ここは西側の小空間である。北、東、南へと通路が繋がっている。つまり、南からはウサギモドキが来るのだ。急いで確認作業を終えてしまおう。


 俺は小空間の西側にある扉へと向かった。


 扉に手を触れても開かない。手を離すと、ネズミをデフォルメしたような黒い紋様が浮かぶ。色合いのせいで若干の贔屓目があるものの、やはりこちらの方が濃ゆかった。


 その時、後方でネズミモドキの気配を感じ取った。


 これはドロップ品、ネズミ耳カチューシャのおかげである。どうやらこの付け耳シリーズはその種類に応じて感知能力が向上する仕様のようだ。イヌ耳ならイヌモドキが、ネズミ耳ならネズミモドキの居場所を感知しやすくなる。同時に付けても効果は重複しなかった。


 現在は、西側エリアにいるためネズミ耳を装着していた。ネズミ耳は一際大きな黒い耳が特徴だ。傍から見れば某遊園地へ遊びに来ている来園客のように見えるかもしれない。恥ずかしくはない。どうせ見ているのはカレンだけだしな。


 どうやら数は3匹だ。中央エリアに繋がる東側の通路からこちらに向かってきている。まだ姿は見えていない。何度か曲がった先の通路にいるからだ。


 これは丁度いい。狩るか。思わず舌舐めずりする。失敗ムーブっぽいフラグを立ててるが、生憎ネズミモドキは既に俺の敵ではなかった。


 真正面から相手にする理由はない。


 複数匹の相手と戦うときのコツは色々とある。

 一つ、不意打ちで数を減らす。

 二つ、1対1の状況を作り出す。

 三つ、動作を繋げる。

 四つ、同時に襲いかかる敵には、同時に対処する。


 一つ目と、二つ目はまあ当然の発想だろう。数の利を極力、活かされないように立ち回るのは大事だ。


 三つ目は1つの動きで止まらず、次の次まで想定して動くことが重要だ。蹴りを放てばそれで終わりじゃない。蹴りを放った勢いを利用して次の行動に繋げる。未来を見据えた行動予定を立てる。これ大事。


 四つ目は、範囲攻撃のことだ。これには大分体力と筋力を消耗する。言わば力任せな対処方法といえた。物干し竿を無理矢理に振り回してみたが、めちゃくちゃ疲れる。全身の力をフルに使わなければ放てない必殺技みたいなものだ。


 というわけで実践その一、まずは不意打ちだ。


 俺は既に移動を終えていた。通路の角に隠れるようにして物干し竿を高く掲げる。いつでも振り下ろせる姿勢を保っていた。ネズミ耳のおかげで3匹の位置取りは完璧に把握できている。


 くの字を描くように前衛に一匹、中衛に一匹、後衛に一匹といった具合だ。距離はそこそこ開いている。先頭のネズミモドキを攻撃してもすぐさま反撃を受けることはない。


 その時が来るまで、ただじっと待つ。同じ姿勢でいるのは疲れるがただ耐えるのみ。息を殺し、気配を殺す。身動き一つ取らないように心がける。


「フッ!」


 その時は来た。


 姿を現したネズミモドキに物干し竿を叩き下ろす。「じぇっ」と鳴き声を零しながら、まず一匹が逝った。「チュウッ!」「ジュウッ!」とネズミモドキの怒りの声が耳に届く。


 バスケットボールよりも大きなネズミモドキの遺体を放棄して俺は通路を大きく下がった。残り2匹のネズミモドキが角から一匹ずつ時間差で現れた。そしてこちらの姿を確認したネズミモドキから順に地面を駆ける。


 これは位置取りを利用して時間差を作るテクニック、実践その二だ。モドキは基本的に真っ直ぐ走る。変則型は例外だ。つまり角を曲がる側に近いネズミモドキの方が早く顔を出すのだ。


 今回は元々ある程度離れていたので、わざわざ下がる必要もなかったかもしれないが、まあ念のためである。


 あとは簡単。


 一匹ずつ冷静に対処すればいい。ネズミモドキの突進に合わせてスキのない棒突きを食らわせる。軽く払って遺体をどかし、次のネズミモドキに同じことを繰り返した。


 ね、簡単でしょ。


 ネズミモドキは大体全長60cmくらいだろうか、普通にでかい。図体が大きいせいか、動きが素早くても問題なく目で捉えられる。まあ慣れの問題かもしれない。


 姿形はネズミという種を以下略だ。ただ、一般的なネズミよりもやや誇張されている感はある。ネズミの尻尾がヒョロっと長かったり、耳がやけに大きく丸かったりだ。


 遺体を抱えなくてもよくなったが、直視するのも好きではない。とりあえずドロップ処理が終わって遺体が消えるまでは眺めていた。スッと消える場合とポンっと消える場合がある。


 後者の場合は、ドロップがある合図だ。ポンっと一つ音がなる。


 ネズミモドキの遺体の代わりにネズミの玩具が転がった。これで3つ目だ。一般的なネズミと同じくらいの大きさで一目で玩具とわかる。これで遊んでねということではないだろう。長い尻尾を引っ張ってから地面に置くと凄まじい爆音を立てながら爆発するようにすっ飛んでいくギミックがある。


 囮として使え。そういうことなのだろう、きっと。壁にぶち当たると壊れた。これも含めて残り2つだ。


 さて、ここからは検証と狩りの時間だ。巻きでいこう。


 一先ず、小空間へ戻って紋様を確認する。しかし、違いはよくわからなかった。次にできる限りネズミモドキに会わないように中央エリアのSポイントT字路まで戻る。中型ネズミモドキは発生していなかった。


 中央エリア近くでネズミモドキを一匹ずつ狩っては移動を繰り返す。14匹、15匹目と狩り終えた。


 そして奴はそこにいた。


 デカすぎだろ。化鼠(バケネズミ)と呼ぶに相応しい巨体だ。ノーマル型の3倍はある。2mクラスの巨大ネズミなんて初めて見たよ。


「うおっ」


 目が合った。鋭い眼光で威圧される。ネズミ耳を装着しているせいで、あの中型ネズミモドキをすぐそばに感じてしまった。勝てるのか? こめかみから汗が流れる。俺は立ちすくんだまま動けなくなった。


 どうやら、その場から動く気配はないようだ。


 中型ネズミモドキはセーフルームへと続くT字路に居座って動かない。俺の居場所を把握しているのに、襲いかかってくる気配がなかった。どこまで近づけば襲いかかってくるのだろうか。


 チキンレースでもしてみようか。


「……」


 急にツインホーンが恋しくなった。


 ウサギモドキには会いたくない。会いたくないが、必要がそれを欲した。八つ当たりするように道中のネズミモドキを狩る。5匹ほど倒して、玩具を2つゲットした。


 そして最西端に辿り着く。


 図らずしもネズミモドキの撃破数は20だ。果たして扉は開くだろうか。周囲を警戒してから扉に触れる。駄目か。まだ開かない。そっと手を離すと、かなり色濃くなったネズミの紋様が現れる。


「もう少しで開きそうな気がする」

「……ぷーぷー」


「……ッ!?」


 ビビったぁあ。南側の通路からウサギモドキの鳴き声が聞こえた。まだその姿は見えない。俺はとっさに小空間の隅へとできるだけ静かに移動した。


 おそらく俺の聴覚が素で良くなっていた。まだ距離があるのにそれを聞き取ったようだ。恐る恐る南側へ通じる通路を覗き込むと、二本の角を生やしたウサギモドキが一匹、ぴょんぴょんとこちらへ向かってきていた。


 落ち着け。やることは同じだ。……いや、待てよ。ネズミの玩具を試してみよう。俺は北側の通路に向かってネズミの玩具を控えめに爆走させた。


「プープッ!」


 おお、反応してる。尻尾を引く強さで勢いと音をある程度調整できるようだ。カチカチカチと三段階に強さを変えられた。そうこうしているうちにウサギモドキが小空間へと辿り着く。


 あの時ほどの速さじゃあないな。ウサギモドキの視線と顔は北側に固定されている。構えていた物干し竿を真っ直ぐに叩き下ろす。「ぷがっ」とウサギモドキは悲鳴をあげた。


「喰らえっ!」


 さらにもう一発。二本角に気を付けながらその横っ面を蹴り飛ばした。あの時の恨みだ。渾身の蹴りを喰らってウサギモドキは小空間の壁に叩きつけられる。


「ふぅ……スッキリした」


 ポンっと音を立てて何かがドロップした。


「うさ耳かよ」


 ガックリしたが、それでもちゃんと拾っておく。


 その後、うさ耳を装備してもう二匹ほどウサギモドキを狩った。もちろん単独の奴を不意打ちでだ。それを2回繰り返した。そして、欲しかったツインホーンをゲットする。


「お、何か仕様が変わってるな」


 二本角の付いた頭蓋骨ではなくきちんと武器化されていた。ウサギの形をしたガントレットだ。アイアンクローの二本角バージョンらしい。手の甲から二本の角がニュッと鋭く伸びている。長さは短棒と同じ、50cmくらいだろうか。


「ツインガントレットと名付けよう。ん、右手専用か」


 これは相棒の出番かもしれない。しかし、そうなると物干し竿が邪魔になるな。捨てるわけにはいかないし。


 ……あっ、いっその事投げてみるか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。