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019:これがなくちゃ話にならない


 疲労困憊、満身創痍、意識混濁状態でミラクルベッドへ辿り着いた俺は倒れ込むように寝転んだ。


 キュインという効果音と共に俺の肉体と精神は瞬時に回復する。左耳も、削られた左頬も、太ももの傷も、その他いっぱいの擦り傷も綺麗サッパリ元通りだ。同時に、血まみれボロボロになった装備品一式も完全に修復された。


 傷跡を残す云々などもはや頭になかったね。自分の身体がちゃんと治ってただただ安堵する。


 迷宮で獲得した戦利品はいつの間にか部屋の片隅に置かれていた。持って帰ったはいいけど、迷宮に持ち込めないんじゃ意味ないよな。 


「あれ、どうなるんだ? トロフィーみたいに飾っとくのか?」


 そう尋ねながらカレンの方へと顔だけ向けると。


「うおっ」


 そこにあったのは白く眩い太ももだった。


 いつの間にかカレンはぽふっと枕元の側に座っていた。ベッドがへこむということは今のカレンには質量と実体があるはずである。なのに俺はすぐそこにあるカレンの太ももに触ることができなかった。


 ……とても悲しい。しかし眼福である。


 透けるような白ブラウスと太ももを露わにするショートパンツスタイルはとても健康的でイヤラシイ。夏に見合った薄着な格好だ。ついエロい目で見てしまう。自己主張控えめな小さいおへそがチラチラと隙間から見えてヤバイ。


 何を疑問に思っていたのか、すっかり忘れてしまった。


 カレンは人差し指で白色に近い蒼髪をくるくるといじっている。その仕草はとても可愛らしくて似合っていた。そして寝転んでいる俺の顔を覗き込むように近づけ。


「ボクね、正直言ってすっごく驚いてるんだ」


 カレンはそう話を切り出した。


 至近距離で目と目があう。パッチリとした蒼い瞳がじっと俺を見つめている。それだけで幸せな気分になりそうだ。これで匂いと実体があればなおよしだったのに。


「奇遇だな。俺もカレンのあまりの可愛さに驚いているところだ。というか、あれ? 少し髪色が変わってないか? なんか薄いピンク色に見えてきたぞ」

「え? ああ、それはあれだね。深層に眠ってるシズクの好みに合わせてちょっぴりイメチェンしてみたんだ。どう? 似合う?」


 蒼白な銀髪から淡いストロベリー系のプラチナブロンドへと移り変わる。この色合もかなり似合ってる。めちゃくちゃ可愛い。好み過ぎて心臓がどうにかなりそうだ。


「凄いな。めちゃ似合ってる。というか逆説的に俺のセンスが良いってことだよな。おお、また元に戻った。やっぱりこっちも良いな」


 俺の理想がそのまま反映されるってことは、俺の好みが変わったらそれに応じて変化するってことなのか。大人バージョンとかロリバージョンとかにもなれるってことだよな。ネコ耳娘とか悪魔っ娘スタイルなんかもいいな。


 なんだか、胸と股間が熱くなるな。


「えへへ、ありがとっ。それで、話を戻すけどさ。さっきはよく死ななかったね。ボク感心しちゃったよ」


 死ななかったことに驚かれた上に感心されるとはな、正直ガックリくるね。


「あぅ、ごめんなさい。でもね、ボク本当に驚いてるんだよ? あの時点でMMC002……じゃなくて中型ネコモドキはシズクが太刀打ちできる相手じゃなかったし。ステータス差なんて倍はあったんだよ?」


 そんな奴をゴールもといスタート地点の手前に設置するなとまずは言いたい。


 カレンに言われなくても俺だってアイツを倒せたことに、っていうか中型ネコモドキの正式名称ってそんな記号と数字だったのかよ。もっとカッコいい名前を付けてやれよな。そっちの方が驚きだよ。


「単純に作戦が上手く決まったってことだろ? 真正面から戦えば死ぬなんてことは俺にだってわかってたことだしな」


 完全なる事実だと思う。仮にステータスを上げたところでヤツに勝てるイメージが全然わかない。そもそも人間とケモノがガチで戦うなんて馬鹿げていると思う。銃をもってこい。とびっきり威力のある重機関銃をだ。


「じゃあさ、攻撃するときにどうしてツインホーンじゃなくて相棒を選んだの? 直前の思考では必殺とか、一撃で殺すことに拘ってたよね?」


 ……確かに。


「……いや、そうだっけ?」


 もはやあの時何を考えていたのか自分でもサッパリだった。ただ、何となく。というわけでもなくて……うーん、いや、やっぱり何となくなのか? テンパっててよく覚えてないな。


「身体が勝手に動いてた……というか。一番動きやすくて最適な姿勢を構えようとしたらいつの間にか相棒を引き絞ってたし。後付けで考えるならやっぱり確実性かな。一番怖かったのは俺の攻撃がアイツにスカされることだよな。相棒の方がツインホーンよりもリーチが長いから途中で気付かれたとしても対処されにくい気がしたし。あと無意識的にスキルの効果も期待してたかもしれんな」


 ツインホーンで襲いかかっていた場合を頭の中で想像してみた。


 あの時、中型ネコモドキは横目で俺に気づいていたんだよな。とっさに身を捩じられて致命傷を与えられなかったかもしれない。多少の傷を与えられてもそんなの関係ねえと襲いかかってきそうだし、相棒で上手く意識を昏倒させたからこそ、追撃を決められたわけで。


 そう考えると相棒を選んだ俺はグッジョブだな! まあ、トドメはツインホーンのおかげだけどさ。うん、とりあえずあいつを殺したときのことはもう思い出したくない。


「なるほどなー」


 カレンはうんうんと頷きながら俺の隣で一緒になって寝転んだ。一緒にセーフルームの天井を見上げる。カレンが実体化していれば確実に手を出したのに。


 ……悔しい。


 まあいいか、とりあえず気になっていたことを聞いておこう。


「ところで、迷宮でゲットしたあれってどうなるんだ? 持ち込みは禁止のままなんだよな?」


 ツインホーンが2つ、キャットナックルが2つ、ウルフファングが1つ、アイアンナックルが1つ。これらが雑にセーフルームの片隅に置かれていた。


「ああ、あれね。うーん、そうだね。ポイントに交換しようかな。前に言ったダンジョンショップの通貨に換金するって感じ、どう?」

「どうって言われてもビギナーダンジョンをクリアしないと駄目なんだろ? まだまだ時間が掛かりそうだしな。カタログでもあればモチベに繋がるかもしれんけど」

「なるほどぉ、それじゃあね。ビギナーダンジョンのマッピングを全部終えたら解禁ってことにしようかな」


 マッピングを終えたらか。なるほど、それはいい塩梅かもしれない。別に出会うモドキを全て倒す必要はないわけだしな。


 いや待て、冷静に考えてみろ。マッピングをすべて終えるって結局ダンジョンをクリアするに等しい行為なんじゃないか?


「んもう、大丈夫だよ。ダンジョンの全体像を把握しただけじゃあクリアにならないからね。……ああ、あの扉の先に関してはマッピング条件に含まなくていいよ」


 なるほど。つまり、あの扉を開けなければビギナーダンジョンはクリアできないというわけか。でも今のままだと少しばかり厳しいかもしれない。


「しかし、マッピングか。今の脳内マッピングだと大変そうだよな」

「ふふーん。シズク、そこでスキルの出番ってわけだよ」


 なるほど、スキルか。


 そういえば、まだ探索結果とステータスを確認していなかったな。どれ、見てみようか。俺は寝っ転がりながらステータス画面を思い浮かべた。宙空にポツンと画面が出現する。


「うおっ……いくらなんでも成長しすぎじゃないか? これ。それにまたスキルが増えてるな」


 自力で成長できると言っても限度ってもんがあると思う。


 ここまでポンポンと能力値が上昇するものなんだろうか。それに、またスキルを自発的に習得しているし。そもそも能力値が足りていないスキルを習得できている点がよくわからない。


 カレンめ、絶対にまだ俺に話していない隠し要素があるだろ。


 俺は自分のパラメータを指さしてカレンに指摘する。


「カレンは俺が自力で成長しているって言ってたけどな。確実に何かの補正が掛かってるだろ。俺がダンジョン内で頑張った程度でここまで成長できるなんて到底思えん」


 戦いの中で成長するにしても限度ってもんがあると思う。つまり、ダンジョン内でのパラメータ成長は俺自身の力によるものではなくてカレンの成長システムの一環に過ぎないはずだ。


「ふふっ、気づいちゃった? システム外の成長要素を匂わせたかったんだけどね。それに、シズクにはもっと自信を持って欲しかったしさ。でもね? 確かにダンジョン内におけるシズクの行動にあれこれと色んな補正を与えてるんだけど、それはシズクの行動があってこそだからね。それを履き違えないで欲しいなぁー」


 結局のところ俺が何もしなければ俺は1ミリだって成長しない。あくまでカレンは俺が成長しやすいシステムを提供しているに過ぎないとでも言いたいようだ。


「最初に言ったでしょ? シズクが選択する行動の全てが経験値となるってね。その獲得した経験値がダイレクトにパラメータへ注がれないなんてボク言ってないもんねっ」


 あやふやな情報を与えて探索者をその気にさせるなんて詐欺師みたいな奴だな。でもまあ、可愛いから許す。というか最初からカレンの容姿に惹かれてダンジョン攻略に同意をしている俺に文句を言う筋合いはないな。


 そう言えば、いま一番聞いておきたいことがあったことを思い出した。


「カレン、今の俺なら魔法力を1上げるのにどれくらいの経験値が必要なんだ?」


 初めに聞いたときは確か1万くらい経験値が必要だとカレンは言っていた。俺はどうにもパラメータの値が成長率に直結しているとしか思えなかった。能力値が高いほど、成長しやすいとでも言えばいいのだろうか。


 でもそれだと、一般人の壁を超えるのが一番大変ってことになるよな。この推測は間違っているのかね。


「ふっふっー、それにも気づいちゃったかー。やるねっ、シズク」


 だが、この反応を見るに俺の見立ては間違っていなかったように思える。


「やっぱりな。確信はなかったけどそうだと思ったよ。能力値そのものが成長要素に直結しているとか正直どうなのよ、それ。明らかに最初の頃と今とでは成長率が違いすぎるだろ」


 本当に最初の2周間は何だったのかと言いたい。


「言ったでしょ? 成長には下地が必要だってね。まあ、それこそが大器晩成型の特徴かな。シズクも言ってたよね? 1を知って10を知るヒトもいれば1を知って1を知るヒトいるって。能力値の基盤が高ければそれだけ伸びしろが増えるってことだね。


 それに能力値が高いってことはそれだけ行動力も行動範囲も増えるってことになるわけだから、シズクが行動すればするほど経験値が入るシステム的な仕様からすれば、むしろ今回のシズクの成長しすぎ問題は当然の結果ってことになるかなー」


 能力値絶対主義とか悲しいことを聞かされた気分だ。


 しかしまあ納得できるといえば納得できる考え方だ。成長できる要素がなければ、何をどうあがいても成長はできない。能力値が高ければ高いほどできることや行動範囲が増すというのも言われてみれば頷くしかない。


 ……まったく嫌な現実だ。


「あと、ステータス画面で経験値を消費してパラメータを上昇させるのと、ダンジョンでシズクが自力でステータスを向上させるのは別のシステムだからね。


 ネタバレすると経験値を消費してステ振りすると数値と肉体の実態にどうしても大きなズレが生じちゃうんだよね。だから、経験値はできるだけスキルを取得するのに使って、パラメーターは自力で鍛えた方がちょっぴりお得なんだよ? スキルはボクが頑張ってシズクに合うように調整してるからね。じゃんじゃん取って大丈夫だよ」


 なるほどなー。システムに関してはよくわからないがとりあえず納得しておいた。とにかく俺は俺なりに頑張ればいいってことだな。実にシンプルな答えだ。


「さて、シズクの質問に答えるね。今のシズクなら魔法力を0から1にするのに……なんとっ、5000くらいの経験値が必要です! いえーい、やったねっ」


 くらいって何だよ。


「これからも俺が能力値を向上させることで、さらに必要経験値は少なくなるってことか?」

「そゆことー。特に生命力と精神力が重要だね。その項目が魔法力にもかなり影響するからね。というよりもね」

「互いに影響しないパラメータなんてない。そう言うことだろ?」


 生命力なんて特にそうだ。生命の力ってのは伊達じゃない。肉体機能が向上するなら他の全項目に多大な影響がある。……もしかして生命力を上げるだけで良いんじゃないか、このステ振りゲーム。


「おお、冴えてるねー、シズク。生命力はシズクの根幹の部分だからね。それも一つの選択かな。でもボクはあえて特化型じゃなくて万能型を改めておすすめするよ。スキルの習得にも関わってくるからね」


 カレンの言質も取ったし、これは思っていた以上に早く魔法的な力を習得できるかもしれない。早く魔法とか使ってみたいなー。攻撃関係よりも便利な魔法が使いたい。かゆいところに手が届くような気軽な魔法を日常的に使うのが俺の理想だ。


 テレビのリモコンを取る時にふわっと浮かせて引き寄せるとか。食器を洗う時に風と水の魔法でウォッシュするとか。期待に胸が躍るな。


 ああ、そうだった。もう一つ聞いておきたいことがあったな。


「カレンの経験値システムを利用しないで俺が魔法力を獲得する方法はないのか聞いておきたい」


 スキルを自力で習得できると聞いたときから心の片隅に置いていた問いかけだ。


「ふむふむ、良い質問だね。……うん、結論から言うとできるよ」

「できるのか!」


 夢が広がる答えだ。


「けど、本当に魔法力が0だからね。せめて0.5くらいの才能があったら伸ばすのは比較的簡単なんだけどね。んー、でも今のシズクなら……ちょっと待ってね」


 カレンはじっと俺の何かを見つめているように思えた。肉体ではなくて俺の内側を覗かれているような気分だ。


「シズクって第六感とかオカルトとかそういうの信じるタイプだよね?」

「全面的ってほどでもないけどな。そういうのがあったら面白いな程度かな。というかもうカレンと出会ってるんだし、完全に信じてるよ」


 そんなオカルトありえません。なんて微塵にも思わないね。


「魔法力の訓練としてはそこらへんを意識してみるのも良いかもね。考えるな、感じろ的な? こう自分の魂を認識するとだいぶ習得が楽になるかなー」


 魂か。自分が死んだらどうなるんだろう的なことは今までも何度か考えたことがある。実際、死んでみた結果、蘇生されているわけだけど。死んだ瞬間にミラクルベッドで蘇生されるから、今ひとつ実感がわかないんだよな。


 死ぬ直前は意識が朦朧として状況がよく掴めないことが多いし。いつの間にか死んでいるケースが多かった。


「なるほどな。今度から意識してみようかな。こんな状況に巻き込まれているわけだし、魂くらい信じてもバチは当たらないよな」


 既に16回も死んでいるので、もっと魂的な感覚を身に着けていてもおかしくはないとは思っている。蘇生の仕様について真面目に聞けば何か掴めるかもしれないけど……。とりあえず、当面は第六感やオカルト的な要素を意識していくとしよう。


「それで今回はステ振りどうするの? ボクのオススメスキルとか先に見ておく? さっきの流れから言って今は一つしかないんだけどね」


 カレンのステ振りの話題に乗っかって思考を切り替えるとしようか。今回の探索の反省と次回の探索方針もしっかりと考えないと。


「そうだなー、獲得経験値は376か。パラメータをオール10に割り振っても256ポイント残る計算か。ここいらで有用なスキルを覚えておくのも有りだな。カレンのオススメスキルを教えてくれ。つってもさっきの流れからいってアレしかないんだろうけどさ」


 散々、前振りして話題に出したアレである。


「ボクのお目々によると、シズクは戦闘スキルよりも探索スキルの方がオススメだよね。特にダンジョンの地理掌握で手こずってるみたいだし。それが探索思考や方針決定に悪影響を与えてるのは明白かな。ご褒美を達成するのにも大助かりの……ずばりボクのオススメスキルはこれです!」


スキル名:<マッピング>

 生命力10 器用さ10 知 力10 精神力10

アクティブ

 生命力:マップ映像のオン・オフ

 器用さ:マーキング・メモ機能

 知 力:オートマッピングのオン・オフ

 精神力:探索に支障が出ない程度の思考力の維持

パッシブ……能力値によって効果及び精度向上

 生命力:マッピング映像出力

 器用さ:マーキング・メモ機能

 知 力:オートマッピング

 精神力:思考の負担軽減


「……もうね、実際問題これがなくちゃ話にならないよな。最近のゲームで初っ端からマップ機能が付いている理由が明白過ぎる。もちろん地理地形の覚えゲーもあるけど、それはそう言った要素を楽しむもんだしな。実際にこの身一つでダンジョンを探索するならこれは絶対に必須のスキルだ」


 カレンが提示した<マッピング>スキルを俺は躊躇なく習得する。消費経験値は200も必要だが惜しむものでもない。もちろん、先にパラメータを割り振ってスキルの習得条件を満たしておく。


 結果、俺のステータスはこうなった。


* * * * * * ス テ ー タ ス * * * * * *

 名前:中ノ森シズク 性別:男 年齢:19

 成長率:大器晩成 才能:微才 称号:アスリート級

 パラメータ(アスリート:10 達人:15 超人:20)

 生命力= 12 → 12  消費経験値120

 耐久力= 11 → 11

 筋 力=  8 → 10  20×2

 器用さ=  8 → 10  20×2

 敏捷性=  9 → 10  20

 知 力=  9 → 10  20

 精神力= 13 → 13

 スキル:<耐える> <突進・相棒突き> <ステップ>

     <休息> <激発> <マッピング>200消費

 探索回数:24 獲得経験値:376→56

* * * * * * ス テ ー タ ス * * * * * *

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