菓子
作治はアミーラとマルレーネと共に、イスカンドリアの街の西側に新しく開いたという珍しい菓子が食べられる店にやってきた。
「ここはどんな店なんだ?」
作治は尋ねた。
「アイスクリーム、なる珍しいお菓子を食べさせてくれるお店だそうですよ」
マルレーネは言った。
「アイスクリーム?」
「アイスクリームを提供する店は魔王領、人類諸国連合合わせて世界に五つしかないらしいぞ」
アミーラはそう説明した。
店内は大層な盛況ぶりである。
魔王領から商人風の者だけでなく、人間の富裕層。あるいは物珍しさに食べに来た冒険者も結構いるようだ。
「ヒャッハ!たかがアイスクリームひとつが金貨十枚だなんて、やはり中世ヨーロッパ風ファンタジー世界は後進国だぜぇ!」
「そんな後進国で金貨三十枚出して人数分のアイスを食べちゃう俺達はとってもリッチだぜぇ!」
「君たちに、一つだけ言っておく事があるんだが」
「なんだい。金持チーター?」
「ちゃんとお皿まで舐めるんだぞ?」
「そ、そうかっ!お皿を舐めれば食べてる途中で溶けちゃったアイスまできちんと残さず食べれるな!」
「さすが金持チーターだ!俺達とは次元が違いすぎるっ!!!」
その様子を入り口付近で見ていた作治は、
「ちょっと出かけてくる」
と言って、店の外へ出て行った。
そしてすぐに戻ってきた。
「サク様どこへ行ってらしたのですか?」
「トイレに決まっておろう。ほら席が空いたようだぞ」
作治達はヒャアヒャア言いながらアイスを食べ終えた連中の後に静かに座った。
「ところで、このアイスはどうやって造ってるの?やっぱり魔法?」
「それだと採算が取れんらしい」
「じゃあどうするの?」
「なんか後ろの工房で石炭のカマドで造ってるらしいですよ」
「石炭?!アイスは冷たいから熱で溶けちゃうでしょっ!?」
「さぁ?でもカマドはありましたよ。で、その工房から冷たいアイスがこのお店に運ばれてくるんです」
「詳しいレシピは門外不出らしいのう」
「解せねぇ。なんで石炭でアイスができるんだ・・・」
そんな会話をしていると店の店員がアイスを三つ。運んできた。
そのアイスの下に、作治はあるものを挟み込む。
「サク。お前何をしておるのだ?」
「そこの菓子店で買った銀貨一枚のウェハースだよ。この世界では、このローヌって国ではアイスは一個金貨十枚何だろう?こうしておけばアイスが多少溶けても残さず食べることが出来る」
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中世ヨーロッパ風ファンタジー世界に一つだけ何か持っていくか?
という質問がある。
様々な候補があるが、料理の本。あるいは菓子作りの本というのが最有力候補であろうと自分は思う。
必要な調理器具。及び材料はすべて現地で調達する。
戦場でなければ作業は比較的容易だろう。
なかにはあえて戦場で「俺の菓子作り(或いは料理)でこの戦乱の世を終わらせてやるぜ!」と考える猛者もいるかもしれない。
調理法のみ参考にして、材料、器具は現地の実情に合わせて対応すればなんとかなるだろう。
ただ、自分の持っている料理の本には注意をしなければならない。
「なにやら『ニホン』とかいう国から来た凄腕の料理人がいるようです」
「その物は料理の秘伝書を持っているようですぞ」
「始末して秘伝書を奪うのです。さすれば我らがこの国一。いや。世界一の料理の使い手に」
料理の道は、険しい。




